相続が発生した際には、相続人の確定のための手続が必要です。
これには、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍を取得することが求められます。
戸籍の種類や取得方法を理解しておかなければ、適切な相続手続の準備ができません。
特に、故人の戸籍謄本は複数の役所から取り寄せることもあり、すべてを集めるまでには時間と労力がかかることもあります。
相続手続を自分で行う場合、戸籍謄本の取得はしばしば困難になるため、戸籍謄本に関する基本的な知識を身につけておくことが重要です。
相続手続きで戸籍謄本が必要なときは?
相続手続きでは、相続税申告や相続放棄・限定承認の申述、不動産の相続登記などで戸籍謄本が必要となります。
ただし、一部のケースでは省略も可能なため、取得前に確認しておくと良いでしょう。
以下の相続手続きでは、「被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本」と「相続人全員の戸籍謄本」が必要となります。
戸籍謄本が必要な相続手続
相続放棄や限定承認を選択しない場合、申述は不要となります。
また、財産の内容によっては、相続税申告や不動産の相続登記も必要ないかもしれません。
ただし、必要な手続きについては、戸籍謄本を用意して期限までに提出しなければなりません。
「被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本」と「相続人全員の戸籍謄本」は基本的に相続手続きに必要ですが、一部のケースでは省略または簡略化が可能です。
死亡後の公的機関での手続きで戸籍が必要なケース
戸籍謄本に有効期限はないので早めに取っておいてOK
相続手続きによっては住民票なども必要ですが、住民票などは、発行から3カ月以内など有効期限が設定されています。
準備が早すぎると有効期限が切れることもありますが、戸籍謄本に関しては有効期限がありません。
なぜなら、被相続人が死亡した事実は何年経っても変わらないという理屈があるからです。
相続の状況によっては何通もの戸籍を取り寄せますが、時間があれば自分と被相続人の戸籍だけでも取り寄せるようにしてください。
いずれ必要になるので、早めに準備しても無駄にはなりません。
相続手続で必要な戸籍謄本は2種類
相続手続きに必要な戸籍謄本は、証明する内容により異なります。
主に、法定相続人の証明と現存確認の2種類があります。
以下では、これら2種類の戸籍謄本について説明します。
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本は、法定相続人を証明します。
法定相続人には、被相続人の配偶者、子、直系尊属(父母・祖父母)、兄弟姉妹が含まれます。
出生からの記録を調査すれば、結婚や出産の時期を確認できます。
認知した子どもがいる場合もあります。
第1順位の子がいると、父母や兄弟姉妹は遺産を継げないため、戸籍謄本で全ての親族を確認する必要があります。
相続人全員の戸籍謄本
法定相続人が確定したら、現在生存していることを証明するために相続人全員の戸籍謄本が必要となります。
ただし、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本に相続人が記載されている場合や遺言書が存在する場合は、必要ないこともあります。
戸籍集めが大変なケース3選
相続人が多い場合、取得する戸籍謄本の数も増えます。
手間がかかり、必要なものを取り忘れないよう注意が必要です。
以下では、戸籍謄本が多くなる3つのケースを紹介します。
被相続人が何度も本籍を変更している場合
被相続人の戸籍謄本は生まれから死亡までのものが必要です。
そのため、本籍が結婚や離婚、頻繁な引っ越しで何度も変更されていると、戸籍謄本の数も増えます。
戸籍謄本を取得する際は、死亡の記載から順番に遡ります。
本籍地が変わると取得場所も変わり、手続きが煩雑になります。
兄弟姉妹が相続人になる場合
兄弟姉妹の相続順位は第3順位なので、第1順位の子や第2順位の直系尊属がいないことを証明する必要があります。
さらに、父母と養子縁組した子や異母兄弟・異父兄弟についても調査が必要です。
子がいないことは「被相続人の戸籍謄本」で証明できますが、直系尊属が亡くなっていることや異父兄弟・異母兄弟の存在を確認するには「被相続人の両親の戸籍謄本」が必要です。
また、兄弟姉妹が多いと、それに伴い戸籍謄本の数も増えます。
故人に子供がいないことと、両親が亡くなっていることに加えて、
片方の親が違う隠れた兄弟がいないことも戸籍で確認する必要があるんですね。
代襲相続する場合
代襲相続とは、被相続人が死亡したときに本来の相続人が既に亡くなっていて、その子が遺産を継ぐことを指します。
代襲相続が発生すると、本来の相続人の死亡と代襲相続人の存在を証明しなければなりません。
これにより、戸籍謄本の数も増える可能性があります。
独身だったおじさん・おばさんが亡くなった場合で、祖父母と自分の親がすでに亡くなっているケースは、兄弟姉妹の相続+代襲相続の併せ技なので、戸籍収集がかなり大変な場合が多いです!
戸籍の種類
戸籍には、現行の戸籍以外にも、除籍謄本や改製原戸籍(かいせいげんこせき・かいせいはらこせき)が存在します。
除籍謄本
除籍謄本は、結婚・離婚・死亡・転籍などで戸籍に記載されていた人がいなくなった状態の戸籍の謄本を指します。
改製原戸籍
改製原戸籍は、原戸籍(はらこせき・げんこせき)とも呼ばれます。
明治5年に戸籍法が施行されて以来、現在までに5回戸籍簿の様式変更が行われました。
新様式への変更時に、有効な戸籍は新様式に作り替えられました。
この新様式に作り替わる前の戸籍を改製原戸籍または原戸籍と呼びます。
戸籍改正時期
- 明治5年式戸籍
- 明治19年式戸籍(明治19年10月16日〜明治31年7月15日)
- 明治31年式戸籍(明治31年7月16日〜大正3年12月31日)
- 大正4年式戸籍(大正4年1月1日〜昭和22年12月31日)
- 昭和23年式戸籍(昭和23年1月1日〜平成6年12月1日以降のデータ化まで)
- コンピュータ化された現行戸籍(平成6年12月1日以降)
現在、入手できる戸籍謄本は明治19年式戸籍以降の5種類となります。
明治5年式戸籍は現在取得することはできませんが、記載内容は現在のように統一されておらず、地域ごとに違う様式です。
相続手続きでは、現行の戸籍の謄本だけでなく、除籍や原戸籍の謄本もほとんど必要とされます。
明治時代の戸籍なんて関係ない…と思いきや、法律事務所で相続のお仕事をしていると、結構な頻度でお目にかかります。
戸籍謄本と戸籍抄本の違い
戸籍謄本と戸籍抄本の違いを説明します。戸籍謄本は、戸籍の原本の内容全てを写したもので、戸籍全部事項証明書とも呼ばれます。
一方、戸籍抄本は、必要な人の部分のみを写したもので、戸籍部分事項証明書や個人事項証明書とも呼ばれます。まとめると以下のようになります。
どちらが必要かわからない場合は、戸籍謄本を入手しておくと安心です。
戸籍の作り替え時に記載が省略される場合がある
戸籍の改製や作り替え時に、新たな戸籍に前の戸籍の内容が記載されます。
しかし、前の戸籍に記載されていた内容が新たな戸籍に記載されないことがあります。
例えば、被相続人が結婚前に子を持ち、認知していた場合でも、離婚後に本籍地を移した(転籍した)場合、認知の記載が省略され、その子の存在が転籍後の戸籍からは分からないことがあります。
また、戸籍の改製時も同様に、認知等の記載が省略されることがあります。
そのため、相続手続きでは、現行の戸籍だけでなく、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍を取得する必要があります。
戸籍謄本の取得方法
戸籍謄本は本籍地で発行されるため、現在住んでいる地域の役所で取得できるとは限りません。
本籍地が離れている場合は郵送請求もできますが、請求時には本人確認書類や手数料相当の定額小為替も必要になります。
取得場所や取得方法に応じて次のような方法があるので、今後戸籍謄本を集める際の参考にしてください。
戸籍取得にかかる費用
戸籍(全部・個人事項証明書) 450円 | 現在有効な情報が記載してあるもの |
除籍(全部・個人事項証明書) 750円 | 転籍などの原因により昔の情報しか記載がなくなったもの |
改製原戸籍 750円 | 法改正等により新しく作られた戸籍の前の(元となった)もの |
市区町村によって費用が違う場合があるので、事前にHPで確認するのがおすすめです!
本籍地の役所で戸籍謄本を取得する場合
被相続人の本籍地がわかっていれば、本籍地の役所に出向くか、郵送で戸籍謄本を取得できます。
本籍地が不明であれば、被相続人の本籍地が記載されている住民票の除票を請求しましょう。
結婚などにより転籍している場合は、以前の本籍地の役所にも戸籍謄本を請求します。
役所の窓口で戸籍謄本を取得する場合、以下の書類と料金を準備しておきましょう。
申請書は多くの自治体の公式サイトから入手可能です。
事前に必要事項を記入しておくと便利です。
ただし、シャチハタは戸籍請求に使用できません。
戸籍謄本を郵送で請求
本籍地の役所に戸籍謄本を郵送で請求する場合、多くの自治体が公式サイトに請求書を掲載しています。
自治体名と「戸籍謄本」を検索してみてください。
ただし、戸籍・除籍・原戸籍のどれが必要になるかは事前に判断が難しく、一度の郵送で全てが揃わないこともありますので注意が必要です。
郵送で戸籍謄本を請求する場合、以下の書類と料金が必要になります。
定額小為替は郵便局の貯金窓口やゆうちょ銀行で購入できます。
料金と同額にならない場合は、多めに入れることをおすすめします。
おつりは定額小為替で返されます。
定額小為替:ゆうちょ銀行
戸籍が何通になるかは取ってみるまで分からないんですよね…
定額小為替は、1枚買うのに手数料が200円かかるし、ほかに使いみちもないから
あんまりたくさん買って無駄にしたくないです。
申請の時にとりあえず450円分の小為替を1枚入れておいて、市役所から言われた金額の定額小為替をゆうちょ銀行で購入して追納する方法がおすすめです。
「不備等ありましたらお電話ください」と一筆添えると連絡してもらえますよ。
代理人が戸籍謄本を取得する場合
戸籍謄本を請求できるのは基本的に本人または配偶者、子供や孫などの直系卑属や、両親や祖父母などの直系尊属です。
配偶者以外は縦のつながりになりますが、様々な事情から縦ライン以外の代理人に戸籍謄本を取得してもらう場合もあります。
このようなケースでは委任状が必要になり、委任者(委任する人)と受任者(委任される人)で作成した委任状を戸籍の請求に使います。
戸籍収集が楽に進む裏技
「相続手続きのため、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍が必要です。
役所にある全ての戸籍を交付してください!」と言えばOKです!
市区町村の戸籍担当者は戸籍についての専門家です。
簡単な相続の場合でも、どの戸籍が必要かは理解しているはずです。
窓口で直接申請する場合や郵送で請求する場合でも、戸籍の写し等に上記の言葉を記載して請求してください。
ほとんどの場合、必要な戸籍を発行してもらえるでしょう。
戸籍謄本に関する注意点
相続手続きにおける戸籍謄本の役割は、被相続人の死亡の確認と相続人範囲の確定です。
予期せぬ相続人が現れることもありますので、全てをカバーするように準備する必要があります。
戸籍謄本の原本とコピー、どちらが必要かは手続きによります。
原本が必要な場合、手続きごとに都度役所に行くことになりますので、一度の請求で必要な部数を揃えられるように事前に調査すると良いでしょう。
また、原本を提出する相続手続きでは返却されないことが多いため、必要な部数の戸籍謄本を用意するか、後述の法定相続情報一覧図の作成を推奨します。
まとめ
相続人の出生から死亡までの全ての戸籍を入手することは、相続以上に手間がかかります。
また、原戸籍が手書きであるため、文字が読み取りにくいものもあります。
特に相続人が結婚や離婚を繰り返し、家族関係が複雑だったり、数次相続(相続が開始し、相続人が遺産分割協議をする前に死亡し、新たな相続が開始する)や代襲相続(孫、ひ孫、甥、姪などが相続財産を受け継ぐ)がある場合は、多くの相続人が予想され、戸籍の収集がより困難になります。
さらに、相続が発生すると、期限内に相続税の申告や準確定申告など、他の手続きにも追われます。
そのため、仕事で忙しい方や、自身が高齢で戸籍収集に不安がある方は、行政書士や弁護士などの専門家に依頼すると良いでしょう。
戸籍収集代行サービスは、1万円~5万円程度で利用できることが多く、専門家に依頼することで安心できます。
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