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【不動産の分割方法】代償分割・換価分割・現物分割どれがいい?それぞれの遺産分割方法を詳しく知る

不動産


遺産の分割方法には、以下の3つがあります:現物分割、換価分割、代償分割

現物分割とは、土地や建物、株式や現金などの財産をそのまま相続人間で分ける最も一般的な方法です。

換価分割とは、不動産などの遺産を売却し、得られた売却金を相続人間で分配する方法です。例えば、3人の子供たちが相続人で、3000万円の不動産がある場合、不動産を売却し、得られた売却金を1000万円ずつ受け取るのが換価分割です。

代償分割は、一人の相続人が財産を取得し、他の相続人に代償金を支払って清算する方法です。代償金の額は、民法が定める「法定相続分」を基に計算します。

例えば、価値が2000万円の不動産を2人の子供が相続するケースを想像してみましょう。現物分割により、兄がそのまま不動産を受け取ると、弟の取得分がなくなってしまいます。

兄が不動産を受け取り、弟に1000万円の代償金を支払う代償分割を行うと、兄弟が公平に遺産を相続することができます。

Contents
  1. 代償分割が行われるケース
  2. 代償分割でかかる税金
  3. 換価分割を選択するケース
  4. 換価分割と代償分割の使い分け
  5. 換価分割のメリット
  6. 換価分割を選択したときの相続の流れ
  7. 財産をひとりの代表者名義にした場合の遺産分割協議書の書き方
  8. 換価分割時にかかる税金
  9. 現物分割とは
  10. 現物分割のメリット
  11. 現物分割のデメリット
  12. 現物分割しやすいケース

代償分割が行われるケース

被相続人と同居していた相続人が住み続ける場合

代償分割が行われる典型的な例は、亡くなった父親の住居に同居していた長男が住み続けるケースです。

長男はその家を相続し、住み続ける代わりに、相続権を持つ他の兄弟に代償金を支払います。これにより、長男は単独で不動産を相続でき、他の兄弟も代償金を受け取るメリットがあります。

代償分割を利用すると、不動産を共有名義で相続する「共有分割」の問題も防ぐことができます。

相続人が家族経営の会社を引き継ぎ、自社株式を相続する場合

特定の相続人が会社の経営を引き継ぐ場合も、代償分割は有効です。

例えば、すでに経営に関わっていた長男が家族経営の会社を引き継ぎ、自社株式を相続するとします。経営には関わっていないが、相続権を持つ他の兄弟との問題を防ぐために、長男は公平を保つために現金を支払います。これにより、相続人間の問題を避け、会社の経営を合理的で安定したものにすることができます。

店舗や事務所などの事業用不動産を相続する場合

事業用の土地を相続する場合も、代償分割が行われます。

株式を相続するケースと同様に、事業を引き継ぐ相続人に不動産などの資産を集中させることで、事業の継承をスムーズに進めることができます。その代わり、他の相続人に対して代償金を支払うことで、公平な財産分割が可能となります。

現物分割で公平な分割ができない場合
現物分割で公平な分割ができない場合
複数の相続人間でそれぞれ現物の遺産を受け取ったものの、価値に大きな差がある場合にも代償分割は有効です。例えば、長男が3,000万円の土地を、次男が1,000万円の建物を、それぞれ相続したとします。長男が2,000万円分多く相続することになり、公平とは言えません。

しかし、土地を均等に分割するのは現実的ではないでしょう。この場合には、代償分割を選んで現金で補填することで、平等な相続を実現できます。この場合、長男が次男に1,000万円を支払うと、相続する価値が均等になります。

財産取得者に資力がある
上記のようなケースに行われることの多い代償分割、あくまで財産取得者に資力があることが前提となります。できる限り平等な相続を行うために活用される代償分割は、財産を相続した相続人に代償金を支払う能力があるからこそ成立します。

代償金の分割が認められるケースや、現金以外の代償財産でやり取りされるケースもありますが、基本的には相続人の十分な資力を前提とした遺産分割方法です。

代償分割のメリット、デメリット、お勧めのケース

代償分割は、長男が実家の不動産を継ぎたい場合や、事業承継で後継者が会社関係の財産をまとめて承継したい場合などに利用されます。その特徴を理解しましょう。

代償分割のメリット

●遺産分割が比較的公平にできる
遺産分割の際、分割方法に不公平感があると、相続人同士でトラブルにつながる可能性があります。長男が価値の高い不動産を一人で相続したいと言っても、他の相続人が納得しない場合もあります。

代償分割を利用すると、長男から他の相続人へと法定相続分に応じた金額が支払われるため、不公平感は軽減されます。これにより、遺産分割がスムーズに進むケースが多いです。

●財産を手元に残せる
不動産を相続しても、換価分割により売却されてしまうと、財産が手元から失われてしまいます。親が残してくれた財産を失うことは、寂しさを感じるだけでなく、将来の価値上がり益を得られなくなる損失も生じます。代償分割を用いれば、不動産を手元に残し、次の世代に引き継ぐことも可能です。

●相続税の負担を軽減できる場合がある
代償分割を行い、土地を手元に残すことで、相続税の節税が可能な場合があります。これは土地に「小規模宅地等の特例」が適用されることが多いためです。換価分割によって早期に土地を売却すると、この特例を受けられません。しかし、代償分割を使用すれば、この特例を利用して相続税額を大きく減らすことが可能です。

●不動産の「とりあえず共有」を防げる
不動産は分割できないため、「共有名義」にすることがあります。しかし、これは将来的に大きなトラブルの元になりえます。代償分割によって、「共有しない」または「共有状態を解消する」ことで、トラブルを未然に防げます。

代償分割のデメリット

代償金の設定額で争いが起こる可能性がある

実務上よく問題になるのはこの点です。

例えば、自宅不動産を長男が取得し、二男が長男から代償金を受け取るケースを考えてみましょう。

自宅不動産の価値によって代償金の金額が決まるため、長男は自宅不動産の価値を低くしたい一方で、二男はその価値をできるだけ高くしたいのです。

不動産には絶対的な価値基準が存在しないため、評価方法は次のように様々です:

○相続税評価額○固定資産税評価額○公示価格○市場価格

一般的には市場価格を基に代償金を決めることが多いですが、相続税評価額や固定資産税評価額で決める場合もあります。

このように、代償分割の根拠となる財産の価値設定が相続人間の争いの原因となることが、代償分割の大きなデメリットとなります。

●遺産の評価が原因でトラブルになることもある
代償分割をする際には、対象となる不動産の評価が必要となります。しかし、不動産の評価方法は一様ではありません。代償金を支払う相続人は低く見積もる傾向にあり、受け取る相続人は高く見積もる傾向にあります。これにより、意見が合わず、トラブルになるケースも少なくありません。

●贈与税が発生するリスクが存在します

代償分割において、支払われる代償金額が多い場合、代償金を受け取った相続人に対して「贈与税」が発生する可能性があります。代償分割に関連する税金については、後ほど詳しく説明します。

代償金の準備が必要

代償分割とは、遺産に金融資産が不足している場合に、代償分割の根拠となった財産を取得した相続人が自身の固有財産から代償金を出す必要があるということです。

つまり、自宅や非上場株式を相続する代わりに、他の相続人に支払いが必要になるのです。

自分が相続したのに、自分のキャッシュが減ってしまうのは一番のデメリットです。

また、代償金を受け取る側の相続人としては、代償金が適切に支払われるかどうかの問題もあります。

分割払いにした代償金が滞納する可能性も否定できません。

過去の裁判例では、代償金の債務不履行を理由に遺産分割協議の解除が認められなかった事例も存在します。

遺産分割協議の解除ではなく、債務不履行として争わなければならず、相手方に資力がなければ代償金を得られない可能性もあるのです。

所得税の負担が重くなる可能性がある

代償分割を選択することで相続税の取得費加算の特例が一部制限され、結果的に所得税の負担が重くなることがあります。

2-3. 代償分割をお勧めするケース
●公平に分けたい場合
遺産をなるべく公平に分けたい場合、代償分割がお勧めです。財産を取得しない他の相続人も代償金を受け取れるので、不公平になりません。

●財産を手元に残したい場合
相続した財産を売却せずに手元に残したい場合、代償分割を検討しましょう。換価分割すると財産が失われてしまいます。

●遺産が不動産しかない場合
相続財産が預貯金や株式などのさまざまな財産であれば現物分割でも公平に分けやすいですが、不動産しかない場合は、現物を均等に分けることは難しくなります。この場合、代償分割によって不動産を相続する人が他の相続人に代償金を払わないと不公平になります。

●代償金を支払う余裕がある場合
代償分割を行うには、不動産の取得者が代償金を支払う必要があります。資力がなければ代償分割はできません。したがって、財産取得を希望する人が資力を持っている場合に代償分割を行うのが良いでしょう。

●事業を承継したい場合
事業承継の際には、後継者に会社株式や事業用の資産を集中させる必要があります。そのときは、現物分割か代償分割により、後継者が必要な資産を取得することを考えましょう。

代償分割における代償金の決定方法

代償分割では、対象となる不動産の評価方法によって代償金の金額が変動します。

不動産の評価方法

不動産の評価方法には、「相続税路線価(土地)」「公示地価」「固定資産税評価額」「時価」の4種類が存在します。

遺産分割の際には「時価」を採用するのが一般的です。時価は実際の取引価格を指します。不動産会社に査定を依頼して確認しましょう。

不動産の評価額が高いと、代償金も高額になります。代償金を払う相続人には低い査定額が有利で、逆に受け取る相続人には高い査定額が有利となります。

遺産分割協議の際、不動産の評価方法は相続人間の合意によって決定します。「遺産分割時の時価」が原則ですが、全員が合意すれば相続税路線価や固定資産税評価額等を用いて評価することも可能です。

なお、相続税計算の際には以下の評価額を用います。

  • 土地は相続税路線価
  • 建物は固定資産税評価額

評価額に基づく代償金の決定手順

不動産の評価方法が決まったら、評価を実施しましょう。評価額が明らかになったら、代償金の計算が可能です。不動産を取得する相続人は他の相続人に対して、法定相続分に足りない分を代償金として支払います。これにより代償分割が完了します。

代償金を決める際の注意点

代償分割する際には、不動産の評価額と法定相続分を基に代償金額を決定するのが基本です。ただし、遺産分割協議で解決する場合、全ての相続人が納得すれば厳密な計算は必要ありません。原則とは異なる金額を代償金とすることも可能です。

例えば、3000万円の不動産があって子供3人が相続人になった場合、不動産を取得する相続人は他の相続人へ1000万円ずつ払うのが原則です。しかし、他の相続人が納得すれば9800万円ずつでもよく、逆に取得する相続人が納得すれば1100万円ずつ払っても問題ありません。

ただし、代償金が過剰または不足すると「贈与」とみなされ、贈与税が課せられる可能性があります(詳細は後述)。税務を考慮するなら、基本的には法定相続分に応じて計算した金額にするべきです。

また、代償金を財産で代わりに払うと、譲渡所得税が課せられる可能性もあります(詳しくは後述)。この問題を回避するためには、代償金の支払いは現預金で行うことが推奨されます。

代償分割でかかる税金

相続税の計算方法

代償分割したときの相続税の課税価額の計算方法は、不動産を時価で評価したか、相続税評価額を使って評価したかによります。

【時価を使って評価した場合】

〈代償金を払った人の課税価格〉

課税価格=相続税評価額-代償金額×(相続税評価額÷代償分割時の時価)

〈代償金を受け取った人の課税価格〉

課税価格=相続税評価額+代償金額×(相続税評価額÷代償分割時の時価)

【相続税評価額を使って評価した場合】

〈代償金を払った人の課税価格〉

課税価格=相続税評価額-代償金額

〈代償金を受け取った人の課税価格〉

課税価格=相続税評価額+代償金額

例えば、子ども3人が相続人となり、土地の相続税評価額が3000万円で、長男が次男と長女に代償金として1000万円ずつ(合計2000万円)を支払ったケースを考えてみましょう。

〈長男の課税価格〉

3000万円-2000万円=1000万円

〈次男と長女の課税価格〉

それぞれ1000万円ずつとなります。

贈与税は遺産分割協議書への記載があれば課されない

代償分割を利用して代償金を受け取った場合、相続税の課税対象にはなりますが、贈与税は基本的に課せられません。そのため、「遺産分割協議書」に「代償分割により代償金を支払う」という趣旨の記載を忘れないようにしてください。記載がないと、贈与とみなされて贈与税がかかる可能性があります。

また、代償金額を必要以上に支払うと贈与税が課せられる可能性があります。例えば、2,000万円の不動産の代償金として1,000万円支払うべき事案において、1,500万円分の財産を渡した場合などです。

所得税が課税される場合がある

代償分割では、一般的には現金で代償金を支払いますが、代償財産として不動産などの資産を渡すことも可能です。ただし、その場合、不動産の譲渡があったとみなされて所得税が課せられます。

例えば、長男と長女の2人が相続人で、長男が土地と家屋を相続し、長女にはその代償として、長男が以前から持っていた土地を渡したとします。長男が土地を取得したときの価格が1000万円で、その時価が1500万円だとすると、長男に対して、500万円の譲渡所得に所得税が課せられます。

代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算:国税庁

換価分割を選択するケース

換価分割は主に以下のようなときに選択されます。

納税資金の確保のため 使われていない、もしくは今後も使う予定のない不動産を手放す場合 現物では分割しにくい財産の場合 納税資金の確保のため 相続税は原則現金納付です。相続する財産が不動産などに偏っていたり、現金が少ない場合、不動産を売却して現金化することで納税資金を確保することができます。

使われていない、もしくは今後も使う予定のない不動産を手放す場合 使う予定のない土地や不動産を相続した場合、使用しなくてもその不動産に対する税金は発生し続けます。さらに、定期的な掃除や点検もしなくてはいけないため、維持が困難と判断した場合は、財産を手放す選択をするケースは少なくありません。

現物では分割しにくい財産の場合 現物では分割しにくい土地や不動産、証券、家庭用財産(車や貴金属など)は現金化することで、相続人間で公平に遺産を分け合うことができます。

換価分割と代償分割の使い分け

分割方法としては現物分割と代償分割があります。これらは、居住継続や事業利用などで不動産をそのまま相続したい方に適しています。しかし、現物分割では相続財産の中でも大きな金額を占める不動産を相続するため、他の相続人とのバランスが崩れ、公平な相続とはなりません。

代償分割は公平性が高まりますが、不動産の相続人は他の相続人に対して、不動産の代わりとなる財産を支払う必要があります。そのため、十分な資力がある人でなければ利用しにくいと言えます。

換価分割は、不動産の相続を希望する人がいない場合に適しています。この方法では、売却代金を相続人で公平に分けることができます。

公平な相続に適した分割方法は換価分割と代償分割の2つです。不動産の相続を希望する人がいない場合、換価分割が選択肢となります。

換価分割のメリット

メリットとデメリットのイメージ図 換価分割のメリットとしては、以下の2点が挙げられます。

  • 公平に財産を分割できる
  • 納税資金の確保が可能

公平に財産を分割できるというメリットは、現物では分割しにくい財産を現金化することで、相続人間で公平に相続することが可能となります。これは相続人間でのトラブルを回避する効果もあります。

また、納税資金の確保というメリットは、相続税は原則として現金での納付となるため、相続財産に現金が少ない場合、売却できる財産を現金化することで納税資金を確保できます。

しかし、換価分割にはデメリットも存在します。以下の3点が挙げられます。

  • 売却益による税金が発生する
  • 売却手続きに手間がかかる
  • 希望に沿った売却額がつかない場合や売れない場合がある

不動産を売却した場合、譲渡所得として所得税と住民税が課税され、相続した現金が減少する可能性があります。

売却手続きには、土地や不動産の査定依頼や必要書類の収集が必要であり、信頼できる不動産会社を探すことも重要です。査定を依頼してから引き渡しまでにはおおよそ6か月かかるとされており、その間の不動産会社とのやり取りに手間や時間がかかります。

また、希望に沿った売却額がつかない場合や売れない場合があります。特に、相続税の申告期限までに売れなかった場合、その土地や不動産に対する相続税は納めなければなりません。

換価分割を選択した場合、計画通りに進まないこともありますので注意が必要です。また、売れない期間にも固定資産税は発生するため、相続人が複数いる場合は、固定資産税を誰が負担するのかを事前に話し合い、その内容を書面などに残しておくことが望ましいです。

換価分割を選択したときの相続の流れ

以下は換価分割の手続きの流れです。

  1. 遺産の分割方法を換価分割に設定
  2. 遺産分割協議書の作成(共同名義か代表者名義かにより、協議書の記載内容が変わります。)
  3. 不動産登記(名義変更手続き。被相続人名義のまま売却は不可能なため、相続人の名義に変更します。)
  4. 売買契約締結
  5. 売買代金の受領
  6. 相続人間で受領した売買代金の分配(遺産分割協議書に従い分配を行います。) 換価分割をしたときの遺産分割協議書の書き方 遺産分割協議書イメージ図 換価分割の遺産分割協議書の書き方は下記2パターンがあります。

財産を共同名義にした場合の遺産分割協議書の書き方 財産をひとりの代表者名義にした場合の遺産分割協議書の書き方 財産を共同名義にした場合の遺産分割協議書の書き方 換価分割の際、財産を共同名義にした場合の遺産分割協議書の書き方は以下の通りです。 遺産分割協議書書き方見本(共同名義)

財産をひとりの代表者名義にした場合の遺産分割協議書の書き方

換価分割を行い、財産を一人の代表者名義にした場合の遺産分割協議書の書き方について説明します。 換価分割を選択し、不動産の名義を一人の代表者にした場合、贈与税が発生しないようにするためには遺産分割協議書の作成が必要です。例えば、兄弟3人で不動産を換価分割し、そのうちの一人が代表者となって名義変更をした場合が該当します。

税務上と相続上での見方は異なるため、贈与税とみなされないようにするためには、遺産分割協議書作成時に換価分割を選択したこと、代表者の名義にしたこと、売買代金は相続人間で分配する旨を明記する必要があります。

国税庁のウェブサイトでも、「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」について回答しています。

また、遺産分割協議後に売却活動を行わず、長期売却期間を経て売却した場合、贈与税が課税される可能性があるため、注意が必要です。遺産分割協議後は、売却が決まるまで継続して売却活動を行うことが重要です。

換価分割を選択した場合、不動産を売却すべき期限はありません。しかし、納税資金の確保を目的とした換価分割の場合、相続税申告の期限(相続開始から10カ月)までに売却できれば理想的です。それが計画通りに進まない場合もあるため、長期間にわたって不動産を所有してしまうと発生する可能性のあるリスクについては、事前の対策が必要です。

考えられるリスクとその対策は以下の通りです:

  • 長期間の不動産所有による売却時の贈与税:遺産分割協議書に換価分割の旨を明記する
  • 売れない期間の固定資産税の負担や不動産の管理:遺産分割協議時に、売れない期間の維持費や管理体制について話し合う

換価分割時にかかる税金

換価分割の売却価格には相続税は課税されません。相続税は、相続が開始された時点で存在する相続財産の評価額に基づいて課税されます。したがって、換価分割による売却価格は相続財産の評価額とは異なり、この額に対して相続税は課税されません。売却価格に課税されるのは、所得税と住民税で、これは譲渡所得として計算されます。

換価分割の売却価格に課税される譲渡所得税は、先述した通り、所得税と住民税です。この譲渡所得税の税率は、売却した不動産の所有年数により異なります。

所有年数が5年以内の場合:

  • 短期譲渡所得に対する所得税は30%
  • 住民税は9%
  • 復興特別所得税は0.63%

所有年数が5年以上の場合:

  • 長期譲渡所得に対する所得税は15%
  • 住民税は5%
  • 復興特別所得税は0.315%

とまとちゃん
とまとちゃん

なお、2037年までは、どちらの譲渡所得に対しても復興特別所得税が加算されます。

現物分割とは

現物分割は、不動産などの財産を「そのまま相続する」方法です。例えば、自宅不動産を長男が相続し、車や動産類を次男が相続し、株式を長女が相続するといったケースが該当します。

また、土地の場合も、複数に「分筆」して各法定相続人が取得するのも現物分割の一例です。「分筆」とは、一筆の土地を複数部分に分けて再登記し、複数の土地にする手続きのことを指します。

現物分割のメリット

手続きが簡単

現物分割は基本的に、「誰か1人が対象の遺産を引き継ぐ」ため、手続きが簡単になります。

例えば不動産を長男が引き継ぎ、車と動産類を次男、株式を長女が相続するケースを考えてみましょう。長男は不動産を自分名義に登記するだけ、次男は車を自分名義に変更して動産を引き取るだけ、そして長女は株式の名義変更をするだけで手続きが終わります。全員で共同して財産を売却したり、不動産を評価して代償金を払い合うことはありません。

評価に関するトラブルが起こりにくい

現物分割の場合、対象資産の厳密な「評価」は不要です。双方が「私は〇〇の財産をもらう」「僕は△△の財産を受け取る」と納得して決定すれば良いだけです。不動産については、さまざまな評価方法が存在するため、代償分割の際には揉め事が起こりやすいです。しかし、現物分割では評価に関するトラブルが少なく、その点がメリットとなります。

現物分割のデメリット

不公平になりやすい

現物分割は、相続人間での公平性を保つのが難しい問題を抱えています。例えば、遺産が不動産のみの場合、長男がその全てを取得すると、他の相続人は不満を感じるでしょう。

また、車や動産、株式などの財産がある場合でも、不動産と比較して価値が低いケースが多いです。したがって、現物分割では完全に公平に分割するのは困難といえます。

分筆できないケースも多い

土地については、法定相続割合に従って分筆することで、遺産の分割を比較的公平に行うことが可能です。ただし、すべての土地が分筆可能というわけではなく、分筆が禁止されている地域も存在します。また、建物は分筆することができません。

一方、骨董品や絵画などの一般的な動産については、部分的な分解は不可能であることを覚えておいてください。

分筆によって価値が低下する可能性がある

土地を細分化できる場合でも、その結果用途が限定されて価値が低下する可能性があります。

現物分割しやすいケース

以下のようなケースは現物分割に適しています。

特定の相続人に遺産を集中させるのが容易

「家を継ぐ長男に財産を集中させたい」といった場合、特定の相続人に遺産を相続させることに他の相続人が納得しているなら、現物分割は手続きが簡便で適しています。

多様な遺産でも各人が財産を取得できる

遺産に多種多様なものが含まれていて、各法定相続人が何らかの財産を取得できる場合、現物分割を行っても不公平にはなりません。

例えば、不動産が3つ(3,000万円、2,000万円、2,000万円)、車(500万円)、株式(450万円)、ゴルフ会員権(50万円)が遺産として存在し、兄弟2人で相続する場合を考えてみましょう。兄が不動産2つ(2,000万円×2つ)、弟が残りの不動産(3,000万円)、車(500万円)、株式(450万円)、ゴルフ会員権(50万円)を取得すれば、それぞれが4,000万円分の遺産を相続し、公平に分割できます。

預貯金などで調整が可能

遺産の中に預貯金や現金資産が含まれていて調整が可能な場合、現物分割でも公平に分割できます。

例えば、2,000万円の不動産と400万円の株式、2,000万円の預貯金が遺産としてあり、兄弟2人で相続する場合、長男が2,000万円の不動産と200万円の預貯金を取得し、次男が400万円の株式と1,800万円の預貯金を相続すれば公平です。

相続人全員が現物分割に合意できれば、相続手続きはシンプルでスムーズに進む可能性があります。上記で紹介した「現物分割しやすいケース」の内容を踏まえ、全ての相続人で遺産の分け方についてよく話し合いましょう。

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