「これから先、もしものときにはどうなるのかしら……」
親御さんとの同居が始まると、ふとこんな不安がよぎることはありませんか?
一緒に住むからには、お世話や介護をする機会が多くなり、身体的・精神的にも負担がかかる場合がありますよね。
そんなとき、「介護を頑張った分、私の相続分って増えるの?」という疑問をお持ちになる方は少なくありません。
そこで今回は、「親と同居して介護に貢献した子どもは遺産を多めにもらえるのか?」というテーマを、できるだけやさしく・わかりやすくお話していきます。
1. 相続ってどう決まるの? まずは基本のルールから

相続には法律で定められた基本的な割合「法定相続分(ほうていそうぞくぶん)」があります。
たとえば、父母どちらか片方が亡くなり、相続人が配偶者(生き残った母または父)と子どもの場合、配偶者が「1/2」、子ども全員で「1/2」というのが基本です。
子どもが複数いるなら、その「1/2」を等分します。
しかし実際には、遺言書(いごんしょ)がある場合は、その内容が優先されます。
たとえ法定相続分とは異なる割合が書かれていても、法律の範囲内なら有効です(ただし「遺留分(いりゅうぶん)」といって、最低限もらえる分は子どもに確保されています)。
つまり、遺産の分け方は「遺言書があるかないか」で大きく変わるわけです。
さらに言うと、他のきょうだいたちが納得して合意すれば、法定相続分以外の分け方も可能なんですね。
2. 介護をした子どもはどうなる? 寄与分(きよぶん)って何?

ところで、「長年同居して手厚く介護してきたから、そのぶんたくさん相続がもらえるのでは?」と思う方も多いでしょう。
その考え方のポイントになるのが「寄与分(きよぶん)」という制度です。
寄与分とは、亡くなった方(被相続人)の財産が増えるのに特別に貢献したり、減るのを防いだりした人がいる場合に、法定相続分より多くの遺産を受け取れる仕組みです。
ざっくり言うと、「他の相続人よりがんばって親の財産を守ったり増やしたりした人には、そのぶん上乗せしますね」というイメージですね。
ただし、寄与分が認められるためには法律で定められた要件があります。
たとえば、
など、「その人の行動が親の財産を明らかに増やした、または減らさずに済んだ」という事実がないと、寄与分を主張するのは難しいこともあります。
3. 介護で寄与分は認められる?

では、「同居してお世話を続けていた」ことが、イコール寄与分になるかというと、実はそこまで単純ではありません。
もちろん、長年の介護は大変な労力と時間を費やします。
しかし、「その介護によって親の財産が増えた(または減らなかった)」ことを、他の兄弟姉妹に納得してもらい、かつ法的にも認められるかどうかがカギです。
たとえば、もし介護サービスを利用するとしたら外部に支払う費用が高くつくことがありますよね。
そこを家族が無償で担っていたなら、そのぶん支出を抑えられて親の貯金が減らずに済んだ、と考えられるわけです。
ただ、これを具体的な数字で示すのは難しい場合も多いもの。
きょうだい間で「どの程度費用が浮いたのか」「どのくらい身体的・精神的に負担があったのか」などを細かく話し合わなければなりません。
4. どうすれば多めにもらえる可能性が高まる?
一番のポイントは、親御さんやほかのきょうだいたちと事前によく話し合っておくことです。
…といった事実を、客観的な数字や日々のメモなどでまとめ、共有しておくと説得力が増します。
また、親御さんに意思能力がはっきりしているうちに遺言書を作ってもらうのもおすすめです。
そこに「介護してくれた○○に多めに渡したい」といった希望を具体的に書いておけば、後からのトラブルを減らせる可能性が高まります。
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5. 寄与分以外にもある? 「特別寄与」って聞いたことある?
2019年から、新しく「特別寄与料(とくべつきよりょう)」という制度が加わりました。
これは、相続人ではない「嫁いだ娘の夫」や「長男の配偶者」などが無償で介護や看護に尽力していた場合、その費用を請求できる仕組みです。
ただ、この制度は相続人でない人向けのため、子どもには寄与分がベースになります。
そのため「特別寄与料」は子どもとは直接関係ありませんが、もしあなたが親御さんの介護をする際、義理の息子さんやお嫁さんなど他の家族が大きくサポートしてくれる場合は、頭の片隅に入れておくとよいでしょう。
6. 「介護しているから絶対多くもらえる」とは限らない
ここで注意したいのは、介護をしていれば必ず多くの遺産をもらえるわけではないという点です。
寄与分は、あくまで「親の財産に対して特別な形で貢献があった」と認められなければ上乗せは難しいのです。
「親の財産がそもそも多くない」「介護費用がそれほどかかっていない」「他のきょうだいと協力しながら費用を分担していた」場合などは、「単に同居して介護していた」というだけでは寄与分が認められにくいことがあります。
7. トラブルを避けるために大切なこと

相続でもめる原因の多くは「コミュニケーション不足」。
特に、親の介護については「離れて暮らすきょうだいは現状が見えにくい」という問題もあります。
これらを逐一共有しておかないと、いざ遺産分割のときになって「そんなに苦労していたなんて知らなかった」「もっと言ってくれれば協力したのに」となるケースも珍しくありません。
さらに、もし親御さんにある程度の貯蓄や財産があるのなら、「遺言書を作っておいてもらう」こともトラブル予防策になります。
遺言書は公正証書遺言にしておくと、法的にも強い効力を持ち、紛失のリスクも低くなります。
費用や手間はかかりますが、安心のための投資と考えるのも一つの方法ですね。
8. まとめ:介護している子どもは「まずはしっかり話し合いを!」
親との同居や介護は、人生の中でも大きなウェイトを占めるできごとです。
長年寄り添って大切にケアをしてきた人にとっては、「もう少し報われてもいいんじゃない?」と思うのは自然な感情でしょう。
とはいえ、相続は法律上さまざまなルールや要件が絡んできますし、他のきょうだいの理解も得る必要があります。
介護に大きく貢献していたとしても、必ずしも相続分が増えるわけではないというのが現実です。
しかしながら、事前に家族で十分話し合い、親御さんの希望や介護の負担状況を**「見える化」しておけば、「寄与分」や「遺言書」を通じて、そのがんばりを正当に評価してもらえる可能性は高まります。
大切なのは、後になって「こんなはずじゃなかった!」と揉めないよう、できるかぎり早いうちに周りを巻き込んで話し合いを重ねること。
時間と労力がかかるかもしれませんが、将来の家族みんなの安心のためと思えば、きっと意義のあるステップになるはずです。
もし具体的に「どう話せばいいかわからない」「遺言書ってどこで作ればいいの?」と迷ったときは、弁護士や司法書士などの専門家へ相談するのも手です。
誰にも気軽に話しづらい場合は、役所の無料相談などを利用してもいいでしょう。
家族の絆を大切にしながら、しっかりと自分の将来と向き合う。
それは決して後ろ向きなことではなく、笑顔で長生きするための前向きな準備だと考えてみてくださいね。
まとめると、
- 相続はまず法定相続分が基本。
でも遺言書や話し合いで変更できる。 - 介護に貢献した場合、「寄与分」によって多めにもらえる可能性はある。
ただし、絶対にもらえるとは限らない。
証拠や他の兄弟姉妹の理解が必要。 - 遺言書を作成してもらう、家族で日頃からしっかり話し合うことが大切。
親との同居や介護は、体力的・精神的にも大変ですが、やはり家族との時間はかけがえのないもの。
将来、「あのときああしておけばよかった」とならないよう、元気なうちにしっかりコミュニケーションを取ってみてくださいね。
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