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【相続放棄マニュアル】故人の死亡から相続放棄申述受理までの手順や放棄した方がいいケース

相続放棄マニュアル

相続財産には、不動産、現金、有価証券などのプラスの財産だけでなく、借金や保証債務のようなマイナスの財産も含まれます。マイナスの財産が多い場合、相続放棄を選択することが考慮すべきです。

相続が発生してから相続税の申告納付までの間には、葬儀や四十九日の法要など、多くの手続きが必要となります。そのため、最適な方法を十分に検討する時間が取れないこともあります。相続に関する知識を事前に身につけておくことで、相続時の混乱を避けることができます。今回は、相続放棄の手続きの流れと相続放棄を選択する際の注意点について解説します。

Contents
  1. 相続放棄の基礎知識
  2. 相続放棄のメリットとデメリット
  3. 相続放棄のデメリット
  4. 相続放棄の注意点
  5. 相続放棄の手続き前に準備すべきこと
  6. 相続放棄手続きの流れ
  7. 相続放棄で借金は消滅しない!他の親戚に取り立てが行くことも
  8. 相続放棄手続きをする場合の債権者対応
  9. 「財産放棄(遺産放棄)」と「相続放棄」の違いは何ですか?

相続放棄の基礎知識

相続が発生したときに選べる3つの方法 相続が発生した際には、原則として相続の開始を知ったときから3ヵ月以内に、以下の3つの方法から一つを選択しなければなりません。

  1. 相続放棄
  2. 限定承認
  3. 単純承認

これら3つの方法について解説します。

相続放棄とは、相続財産となる資産や負債などの権利や義務の一切を引き継がない選択です。単純承認の場合、相続財産はプラスの財産(不動産や有価証券、現金など)だけでなく、マイナスの財産(借金や保証債務など)もすべて引き継ぎます。

プラスの財産よりマイナスの財産が多い場合、相続放棄を選択すれば、故人の権利や義務を一切受け継がないようにすることができます。しかし、相続放棄をするためには、故人の死を知ったときから3ヵ月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。

限定承認は、相続によって得られるプラスの財産を限度に債務を引き継ぐ方法です。亡くなった人のマイナスの財産がどれくらいあるかわからないが、プラスの財産があって財産が残る可能性がある場合に選択します。

相続放棄や限定承認の申述は、相続開始を知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所へする必要があります。しかし、相続放棄は相続人1人で行えますが、限定承認は相続人全員で家庭裁判所へ申述しなければなりません。

単純承認は、すべての権利や義務を引き継ぐ方法で、相続放棄や限定承認の手続きをしなければ、自動的に単純承認を選択したことになります。相続放棄や限定承認の申述ができる3ヵ月間のことを熟慮期間と呼び、希望する場合はこの期間内に申述します。また相続放棄や限定承認の申述をしない場合は、故人のすべての権利や義務を引き継ぐことを承認したものとみなされます。

相続は誰にでも発生します。そのため、家族が自分の相続手続きで揉めないように、財産状況は残された家族がわかるようにしておくことが大切です。具体的には、財産の分割方法がイメージできている場合は、遺言書を作成するのも選択肢の一つです。

相続放棄のメリットとデメリット

まず、相続放棄のメリットを説明します。

借金の返済義務がなくなる

被相続人が生前に借金をしていた場合、その返済義務も相続財産に含まれます。また、被相続人が第三者の借金について連帯保証人になっていた場合も、その立場は相続の対象となります。

相続放棄すれば、これらの負債から返済義務が免除されます。遺産中に亡くなった親の借金が見つかり、相続したい財産がなく明らかに負債の方が多い場合、相続放棄がメリットとなるでしょう。

不要な財産を放棄できる

被相続人が先祖代々相続してきた田舎の土地などが相続財産に含まれていた場合、「遠方で管理できない」や「利用価値もなく売却もできず固定資産税を払い続けるのは嫌だ」といった理由から、相続人同士で押し付け合うケースが近年多く見られます。

もし収益の見込めない地方の土地や、不動産業者が買い取りを拒むような土地が相続財産であれば、維持費ばかりかかり、相続人にとっては重荷となるでしょう。

相続放棄すれば、他の全ての遺産を受け取ることはできませんが、不要な財産を相続しなくて済むというメリットがあります。

遺産相続争いを避けられる

相続(単純承認)する場合、故人が遺言書を残していなければ、相続人同士で遺産をどう分けるか話し合う必要があります。しかし、遺産が不動産しかない場合や相続人同士が不仲な場合は、遺産を巡って相続争いに発展する可能性があります。

相続放棄すれば、そのような争いに巻き込まれず、遺産分割協議などに悩まされることもありません。

相続放棄のデメリット

相続放棄のメリットを説明した通り、相続放棄すれば借金の返済義務から免れたり、不要な遺産トラブルを避けられます。しかし、場合によっては相続放棄によって損をすることもあります。

ここでは、相続放棄の手続きをする前に知っておくべきデメリットを説明します。

遺産の全てを相続できなくなる

相続放棄すると「最初から相続人ではなかった」となり、遺産全てを相続することはできません。

もし被相続人名義の不動産に同居していたとしても、相続することはできません。その家から出て行かなければならなくなります。

他の親族を相続に巻き込んでトラブルになる可能性がある

相続放棄すると、相続権が被相続人の兄弟や甥姪に移る可能性があり、「借金を押し付けられた」として親族間でトラブルになるケースもあります。

相続人には「順位」があり、上位の相続人全員が相続放棄すると次の順位の相続人に相続権が移ります。

とまとちゃん
とまとちゃん

トラブルを避けるため、事前に次の順位の相続人に自身が相続放棄することを伝えるなどの対策が必要です。

相続放棄の撤回はできない

相続放棄した後にプラスの財産が見つかったとしても、「やっぱり相続したい」と思っても、一度認められた相続放棄を撤回することは原則できません。

詐欺や脅迫などで強制的に手続きをさせられた場合は例外的に相続放棄の取消しが認められる可能性がありますが、「気が変わった」などの理由では認められません。

相続放棄の手続きを進める前に、相続財産をしっかり調査し、その上で判断することが重要です。

生命保険金・死亡退職金の非課税枠がなくなる

相続放棄しても、生命保険金や死亡退職金は受け取れますが、相続税の課税対象となり、一定額を超えると相続税が課税されることがあります。

生命保険金や死亡退職金には「非課税枠」が設けられており、「500万円×法定相続人の数」が非課税となります。

相続放棄した人も「法定相続人の数」に含まれますが、この「非課税枠」が適用されず、受け取る金額全てが課税対象となりますので注意が必要です。

相続放棄の注意点

相続放棄の手続きを進めたい方へ向けて、注意点をご紹介します。

相続放棄の手続きには期限があります

最初に触れた通り、相続放棄の手続きは、「自分が相続人であることを知ったときから3カ月以内」に、家庭裁判所に申し立てる必要があります。

具体的には、被相続人の配偶者や子供の場合は、被相続人が死亡したことを知ったときから。被相続人の親や兄弟の場合は、先順位の相続人が相続放棄したことを知ったとき(上位の相続人がそもそもいない場合は死亡したことを知ったとき)から3カ月以内となります。

この期間は熟慮期間といい、この期間内に財産や負債の状況を調べ、相続放棄や限定承認をするかどうかを検討することになります。しかし、現代の日本では財産内容も複雑化しており、3か月という短い期間では財産や負債を調べきることが難しいケースも増えています。

そのような場合は、家庭裁判所で熟慮期間を延長(伸長)することも可能です。

遺産分割協議での財産放棄は「相続放棄」ではない

遺産分割協議による財産放棄と相続放棄は混同されやすいです。遺産分割協議とは、相続人間で遺産の分け方について話し合うものです。

相続財産に不動産が含まれている場合など、相続手続きを進めるために「分割協議書」が必要になります。

不動産を承継する人から「相続放棄のための書類」と説明を受け、署名押印したから相続放棄できていると思っていたという話は、私たちに相談いただく中でもよくあるケースです。これは、家庭裁判所で行う正式な「相続放棄」とは異なり、「プラスの財産を相続しません」と相続人間で主張しているだけです。

つまり、相続人であることに変わりないため、後日債権者に弁済を求められた場合「相続放棄」を主張することはできません。

正式に相続放棄を行うためには、家庭裁判所に相続放棄を認めてもらい、「相続放棄申述受理通知書(相続放棄申述受理証明書)」を発行してもらう必要があります。

故人の財産を処分してしまうと相続放棄ができなくなる

相続放棄を予定している場合、遺産の処分や消費をしてしまうと、相続(単純承認)したとみなされる場合があります。

例えば、被相続人の預金を使用したり、不動産や有価証券を売却したりすると、単純承認したとみなされます。

他にも、単純承認したとみなされる手続きが多いので、下記参考ページも合わせてご覧ください。

生前に相続放棄をすることはできない

相続放棄を検討している方の中には、親が借金をしていることを既に知っており、存命中でも早めに手続きしてすっきりしたいと考えている方もいらっしゃるでしょう。

しかし、相続放棄という手続きは、相続が発生してからでないと進められません。この手続きは文字通り「相続」を「放棄」する手続きなので、相続が開始(被相続人が死亡)して初めて行うことができます。

一部の財産のみ相続放棄することはできない

相続放棄が認められると「最初から相続人ではなかった」とみなされます。したがって、借金だけを放棄し、プラスの財産だけは相続するということはできません。

もし、遺産の中に引き継ぎたい不動産や株式などがあるが、借金も多額にあるという状況の場合は、「限定承認」という方法を検討することもできます。

相続放棄をした事実は親族や債権者に通知されない

相続放棄は家庭裁判所に受理されることで成立しますが、その事実は、次の相続人や債権者へ自動的に通知されるわけではありません。

相続放棄をしたことにより相続人となる親戚がいる場合は、相続放棄が受理された時点で通知しておくべきです。

また、被相続人の借金を理由に相続放棄をした場合は、債権者に相続放棄をした事実を伝えないと、請求書や督促状が届き続ける可能性があります。

相続放棄の手続き前に準備すべきこと

故人の財産状況の調査

遺言書の有無や内容を確認する

遺言書が存在すれば、その内容に従って財産が分配されます。つまり、必ずしも自分が負債を引き継ぐわけではありません。また、関係者全員が同意すれば、遺言書が存在したとしても遺産分割協議による相続が可能です。

遺言書が存在しない場合、一般的には相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書に基づいて相続財産を分配します。

債務の有無の確認

相続財産には、上述したようにプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含まれます。相続放棄を考える場合でも、借入金や税金の未払い、保証債務などがどの程度存在するかを調査しなければ判断することはできません。

相続するか放棄するかを検討

相続するか放棄するかどう判断すべき?

相続放棄をすると、被相続人が残した借金の返済義務を免れることができます。しかし、借金だけでなく、全ての財産を相続できなくなります。

相続放棄を行うメリット・デメリットを比較し、どのように相続手続きを進めるか検討する必要があります。

手続きの選択に迷っている場合や、財産内容によって検討したい場合は、財産や負債の有無・それぞれの金額について調査した上で判断することも可能です。

ただし、財産調査には3カ月以上の時間がかかる場合もあります。そのため、家庭裁判所に期間を延長する手続き(熟慮期間の伸長申立)を行うと、判断するための時間を確保できます。

相続の限定承認も選択肢の一つ

限定承認とは、プラスの相続財産を使ってマイナスの相続財産を精算(返済など)し、その後プラスの財産が残っていれば相続人が受け取ることができ、逆に、プラスの財産で返済しきれないマイナス財産については、返済する必要がない手続きです。

また、この手続きは相続人として行うものなので、相続権が次の順位の人に移ることがありません。したがって、被相続人が借金をしていた(またはしていた可能性が高い)場合など、本当は相続放棄を選択したいと考えていても、次の順位の相続人に迷惑をかけたくない場合や、借金の事実を知られたくないといった事情がある場合、「限定承認」を選択するのも一つの方法です。

相続放棄手続きの流れ

必要書類の収集

相続放棄に関しては、申述者(相続放棄を申し込む人)と故人との関係により、必要となる書類は異なります。

全ての場合で共通して必要な書類は以下の通りです。

  • 相続放棄申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
  • 相続放棄する方の戸籍謄本
  • 収入印紙(800円)
  • 切手(80円を5枚程度)

申述者と故人との関係により、これら以外の書類が必要となる場合があります。

相続放棄申述書の作成と提出

記入すべき事項は形式的なものが多いですが、申述の理由の欄の記述方法が重要であり、必要に応じて詳細な事情説明書や資料説明書を添付することもあります。

相続放棄申述書のフォーマットは家庭裁判所のホームページでもダウンロードすることができます。

参考:家庭裁判所ホームページ『相続の放棄の申述書(20歳以上)』

相続放棄にかかる費用

相続放棄を自分で行う場合、まず一人につき800円の収入印紙が必要です。さらに、連絡用の郵便切手を用意し、同封する必要があります。郵便切手の額は裁判所により異なりますので、管轄の家庭裁判所に問い合わせてください。さらに、必要書類を取得する費用も必要で、合計で大体3000~4000円程度となります。

  • 収入印紙代:800円(一人につき)
  • 郵便切手代:大体400~500円(管轄の裁判所による)
  • 亡くなった方の死亡記載のある戸籍謄本:750円
  • 亡くなった方の住民票除票(または戸籍の附票):300円
  • 申述する人(相続放棄を申し込む人)の戸籍謄本:450円

申述

必要な書類が整ったら、家庭裁判所に申述を行います。相続放棄の申述先は、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。ここでの最後の住所地とは、被相続人が亡くなった時点の住民票の所在地を指します。該当する家庭裁判所は、裁判所のホームページで確認できます。

前述したように、相続放棄は相続の開始を知った時から3ヶ月以内に行う必要があります。期間延長の申請を行う際も、相続放棄時と同様に後述する必要書類を添付する必要があるため、「一旦放棄期間を延ばそう」と思った場合でも事前準備が必要です。

家庭裁判所から届く照会書への返送方法

申述後、裁判所から照会書が届きます。これに必要事項を記入し、回答して返送します。

照会書では、「申述が真意に基づいているか」「法定単純承認が存在しないか」等の確認が行われます。法定単純承認とは、相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合などを指し、相続放棄ができなくなる場合を示します。

「申述が真意に基づくものであるか」は、申述者自身で判断できます。「法定単純承認がないか」については、法的な判断が必要な場合があるため注意が必要です。法定単純承認については、基本的に、故人の財産を取り出したり使用したりしていなければ問題ありません。

相続放棄申述受理書が届く

照会書を返送し、相続放棄の申述が無事受理されると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理書」が届きます。「相続放棄申述受理書」が届くと、正式に相続放棄が認められたことになり、原則として、被相続人の債務について責任を負う必要はありません。

相続放棄の申述が却下される場合

家庭裁判所に申述が受理されるかどうかを不安に思う方もいるかもしれません。

基本的には、何らかの理由で受理できない限り、家庭裁判所は相続放棄の申述を受理するべきとされています。

しかし、要件を欠いていることが明らかな場合、申述が却下されることがあります

「実質的な要件を欠いていることが明らかな」場合とは、以下のような状況を指します。

相続人が申述していない場合

相続放棄手続きの申立ては、本人や弁護士・司法書士などの依頼を受けた者が法的な手続きを行います。

他人が本人に成りすまして相続放棄手続きをすると、本人の意思に反して財産を放棄する結果となるため、相続人本人が意思表示をして申し立てを行っているか確認することは極めて重要です。

申し立て後、家庭裁判所も本人の意思に基づく申立てであるかを必ず確認します。

未成年者が相続人の場合、「未成年者は自分で相続放棄ができない」と法律で定められているため、親権者が代理人として行う必要があります。

親子ともに相続人の場合「利益相反」に注意!

【親と子、どちらも相続放棄をする場合】

問題ありません。親は未成年者である子供に代わって相続放棄の手続きを行うことができます。

この場合、まず親が相続放棄の申し立てを行い、その後に親権者代理人として子供の相続放棄の申し立てを行います。

【親が相続し、子が相続放棄をする場合】

この場合、子供の不利益になる可能性があるため、親は代理人にはなれません。

例えば、相続財産に負債があって親が子供に負債を背負わせたくないために子供に相続放棄をさせるという理由でも代理人にはなれません。

法律は形式的に判断します。それが子供の利益になることでも不可能です。

これを法律上**「利益相反」と言いますが、このような場合には家庭裁判所に「特別代理人」の選任審判申立て**という制度を利用して、子供のために代理人となってもらう人を選任する必要があります。

相続放棄申述が熟慮期間内を超えている

相続放棄の手続きは、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から3ヶ月以内に申し立てなければなりません。

「相続の開始があったことを知った時」とは、①相続開始の原因である事実を知った時②自分が相続人になった事実を知った時を指します。

法律を知らなかったというだけでは原則として理由になりません。

被相続人の死亡を知った日から3ヶ月以内に相続放棄の申立てをした場合、熟慮期間が問題になることはまずありません。しかし、熟慮期間経過後に初めて被相続人の借金が発覚した場合など、法定期間の3ヶ月経過後に申立てをした場合は、期限の例外を認めてもらうための一定の事情の説明が必要です。また、特別な事情があるとして裁判所で相続放棄が受理されたとしても、過去の判例上、受理されても内容に問題があれば債権者が相続放棄の効力を争ってくることがあります。

必要書類が不足している

相続放棄申述に必要な書類(戸籍等)が不足していると申し立てが受理されません。

戸籍の収集は一つの役所で請求できないことも多く、戸籍を取得してもまた他の戸籍を取得しなくてはならないことも珍しくありません

また、戸籍を読み解くことに慣れていない方にはとても骨の折れる作業になりますし、時間もかかってしまいます。

相続人が相続財産の一部でも処分をした場合

以下の行為は単純承認事由とみなされてしまいますので行ってはいけません。

  • 預貯金の解約・払戻
  • 携帯電話等の名義変更、解約
  • 不動産や動産の名義変更
  • 遺産分割協議を行い合意する
  • 遺産の自社株に基づいて、相続人として株主総会に参加して議決権を行使する

あくまで一例で、他にも単純承認事由に該当する行為はございますので、詳細はお問い合わせください。

相続放棄を家庭裁判所へ申し立て認められた場合でも、後に単純承認事由とみられる行為が発覚した場合は相続放棄が認められなく場合もございますので、注意しなくてはいけません。

却下された場合の対処法(即時抗告)

上記1などの理由で却下された場合は2週間以内に高等裁判所へ即時抗告という手続きを行うと受け付けてもらえる場合があります。

相続放棄手続きは様々な判例があり、裁判所によっては見解が分かれることがあります。

また、申し立てがなぜ受け付けてもらえなかったのか、その理由をきちんと調べずに即時抗告をしたとしても認められる可能性は極めて低くなります。

相続放棄で借金は消滅しない!他の親戚に取り立てが行くことも

相続放棄すれば借金支払いの義務は免除されますが、それが借金が消滅するわけではありません。相続放棄の意味や結果を理解せずに進めてしまうと、親戚との間でトラブルが発生する可能性があります。

本記事では、相続放棄の仕組み、守るべきマナー、注意点について説明します。

相続放棄は借金を消滅させない

多くの人が「相続放棄」を選択して故人の借金を相続しないようにします。しかし、相続放棄は自身が相続権を放棄する手続きであり、故人の借金を清算するものではありません。

以下では、相続放棄した際の借金の扱いや、親戚に借金存在を知られたくない場合の対処法について説明します。

相続放棄をすると次の相続人に順位が移る

前項でも触れましたが、相続人には順位があります。配偶者は常に相続人となるため、相続放棄による順位の変動はありません。しかし、子供や両親などは相続放棄をすると、次の相続人に相続権が移ることがあります。

例えば、被相続人に子供が2人いる場合:

・一人の子供が相続放棄をした場合、もう一人の子供が相続人となり、次の相続人に相続権が移ることはありません。

・両方の子供が相続放棄をした場合、第一順位の相続人がいなくなるため、第二順位の親や祖父母などの直系尊属に相続権が移ります。第二順位の相続人がすでに亡くなっているか、全員が相続放棄をした場合は、第三順位の兄弟姉妹や甥・姪に相続権が移ります。

被相続人が借金を抱えていて、子供が相続放棄をした場合、債権者は次の相続人を探し、借金の返済を求めます。その結果、被相続人の両親や兄弟に突然、督促状が届く可能性があります。

通常の相続では、子供がいるとき、親や兄弟は相続人にならないため、相続放棄をした事実を知らせていなければ、予期せぬ請求や督促に驚くことになります。「借金を押し付けられた!」と憤るケースも少なくありません。

特に子供が相続放棄をする場合、次の相続人になる人へ事前に連絡を入れておき、借金の存在に突然気づくことがないよう対策しましょう。

親族全員が相続放棄することが可能です

被相続人が借金を抱えていた場合、親族全員が相続放棄すると、誰もその債務責任を負わないことになります。これが道義に反すると感じ、相続放棄が認められないのではないかと疑問に思うかもしれません。

しかし、相続放棄は他の相続人とは無関係に、個々人が単独で決定することができます。

多額の借金が発覚した場合など、自身を含めて次の相続人となる親族全員が相続放棄すると、相続人が一人も残らなくなりますが、これは法律上全く問題ありません。そのため、親族全員で相続放棄することが賢明と言えるでしょう。

故人が借金を抱えていた事実を親戚に知られたくない場合

故人が借金を抱えていた事実を親族に知られたくない場合、どのように対処すればよいでしょうか。「自分の父や母が多額の借金を抱えていた」という事実を親族に知られたくないと考える方もいるでしょう。

しかし、前述したように債権者は、元の相続人が相続放棄をしたと知ると、次の相続人に請求や督促をすることになります。その結果、親族に借金の存在が明らかになってしまう可能性があります。

これを避けるためには、相続放棄ではなく、**「限定承認」**という手続きを検討することをおすすめします。

限定承認とは、相続手続きの一つで、単純承認(プラスもマイナスも全て相続)と異なり、多額の借金があっても被相続人の財産の範囲での弁済で済み、未返済の負債を相続人の財産から支払う必要はありません。

さらに、限定承認は相続放棄とは異なり、相続人として手続きを進めますので、次の順位の相続人に相続権が移らないことになり、親族に借金の存在が知られることはありません。

ただし、一見すると限定承認は手続きが複雑で時間がかかるなどのデメリットがありますので、相続放棄と限定承認のそれぞれの利点と欠点を比較し、検討して方針を決めることをおすすめします。

相続放棄手続きをする場合の債権者対応

相続放棄を行うと、相続人ではなくなるため、被相続人の借金や滞納税を返済する義務はなくなります。しかし、債権者には相続放棄が認められた事実を知らせる義務があります。そのため、債権者に対して自分が相続放棄したことを伝える必要があります。

また、すべての相続人が相続放棄手続きを申し立て、認められた場合でも、相続財産に不動産や動産がある場合は注意が必要です。相続放棄が受理された後も、次の所有者や手続きが決まるまで、自分の財産と同様に管理する義務が生じます。

相続財産に借金などの負債がある場合、債権者の対応や管理義務が発生します。それぞれについて注意を払い、適切に対応する必要があります。

債権者への対応の適切な方法は何でしょうか?相続放棄手続きを行う場合の債権者への対応や、相続財産について詳しく解説します。

相続財産に負債があると判明した場合に相続人はどのように対応すべきか

相続財産に負債があることを知るケースは、債権者からの支払い通知や、遺品の中からクレジットカードなど借金の明細が出てきた場合などがあります。相続放棄をする場合、自身が相続人であることを知ってから3ヶ月以内に相続放棄申述をする必要があります。しかし、熟慮期間を過ぎて債権者から支払い通知が届き、相続財産に負債があることが判明することもあります。

相続放棄や限定承認手続きを申し立てる可能性のある場合は、どのようなケースであっても債権者へ支払いをしたり交渉などをせず、まずは相続放棄又は限定承認手続きをする予定であると伝えましょう。その後、相続するか、または相続放棄手続き又は限定承認手続きをするかを決めて、相続人であることを知った3カ月以内の熟慮期間内に家庭裁判所へ相続放棄や限定承認の申し立てをしましょう。

誤った判断を下すと、想定外の結果、例えば負債や望まない不動産を相続してしまう可能性があります。

債権者から相続人である自分に被相続人の借金の支払い通知が届いた場合

相続が発生した際に負債が判明せず、債権者からの通知により被相続人に負債があることを知るケースがあります。債務者が死去し相続が発生すると債務(借金)も相続されるため、債権者は相続人に債務を請求する権利が生じます。債権者は戸籍を取得し、そこから相続人の氏名や現住所等情報を得て支払い通知を送付します。

債権者から支払い通知が届き、その請求通りに相続財産から少額でも借金の支払いをすると、民法921条1項「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」に示されているとおり、被相続人の権利義務を承継したとみなされてしまい、財産も借金も相続(単純承認)したことになる可能性があります。相続放棄手続きを選択する可能性がある場合は、債権者から連絡があり請求されても支払ったり、支払いの交渉や約束をせず、「相続放棄を検討しているので支払えません」と伝えましょう。通知が届いても、相続放棄や限定承認手続きを申し立てる場合は相続人が債権者へ連絡する必要は特にありませんが、連絡をしないでいると督促が止まりませんので相続放棄手続きを申し立てた旨伝えると良いでしょう。申立てが認められた後はその旨の通知(受理通知書)のコピーを郵送又はFAXをするとほとんどの債権者からの請求は止まります。また、債権者対応と手続きの両方を対応できる専門家へ依頼すると、債権者への説明や連絡を代行してもらうことができ、直接やり取りせずに済みます。

遺品から借金や債権者が判明した場合

被相続人の部屋を片付けているときなどに借金の明細書などがあり相続財産に負債があることが判明した場合、相続放棄や限定承認手続きを選択する場合は3ヶ月の期限内に申立てをしましょう。遺品から見付かった借金の明細に書かれている額が少額で、「この程度だったら支払える」と被相続人の借金の支払った場合、相続を承継したとみなされ、相続放棄手続きが認められない場合がありますので注意しましょう。

相続財産にプラス・マイナスの財産が同程度含まれる場合や不明な場合

プラスの財産とマイナスの財産が同程度である場合や不明な場合はどうすべきか判断が難しいでしょう。

被相続人の生前の生活状況(事業経営していた等)や不動産の有無など様々な状況を考慮し、どの手続きを選択することがベストなのか判断しなければなりません。相続するか否か、それらを3ヶ月の熟慮期間内に判断し、相続放棄手続き等をする場合は戸籍収集や申立書類作成をしなくてはなりません。相続手続きに慣れていない場合は相続順位にもよりますが、戸籍収集だけでも大変な作業になり、手間取ると期限内に申し立てることができない可能性もあります。

誤った判断を下すと、想定外の結果、例えば負債や望まない不動産を相続してしまう可能性があります。このような場合は専門家へ相談し、手続きを依頼することをおすすめいたします。

相続放棄手続きを行う際の債権者対応の注意点

債務者が死亡した場合、負債は相続人に承継されます。そのため、債権者は戸籍などから相続人を確認し、支払い通知を送付します。相続放棄手続きを申し立て、それが認められた場合、相続人の立場はなくなります。そのため、借金や滞納税などの債務を支払う必要はありません。さらに、手続きの申し立てや認可は、債権者に通知する義務はありません。しかし、相続放棄手続きを申し立てた事実を債権者に通知せずにいる場合、支払い通知は届きます。

そのような場合には、直接電話などで相続放棄が認められた旨を伝えるか、相続放棄の受理通知書のコピーを債権者に送付することで、基本的に請求は止まります。

また、相続放棄手続きを開始する前に「少額でもいいから入金してほしい」や「こちらのサインをしてほしい」などの要求に応じて入金やサインをした場合、相続を承認したとみなされ、相続放棄が認められない場合があります。相続放棄手続きを申し立てる可能性がある場合、債権者への対応は慎重に行い、少額でも支払いやサインをしないように注意しましょう。

債権者対応が伴う相続放棄手続きは自身で行うか、専門家に依頼すべきか?

相続財産に借金が含まれ、それがプラスの財産を明らかに上回る場合、相続放棄手続きを選択する方が多いです。相続放棄手続き前から手続き後までの債権者の対応・連絡等には、上記⑴のような相続の承認とみなされる行為を避けることも必要です。また、債権者が複数いる場合、受理後の受理通知書を送付するだけでも大変な作業となります。債権者の対応は思った以上に手間がかかり、間違った対応をした場合、相続放棄ができなくなる可能性もあります。そのため、専門家に依頼することをおすすめします。

相続放棄手続き期限を過ぎた後に債権者からの通知が届いた場合の対処方法

相続放棄手続きは、相続財産に負債があって引き継ぎたくない場合や相続手続きに関わりたくない場合に家庭裁判所へ申し立てる法的な手続きです。相続放棄手続きの期限は3ヶ月で、被相続人の死亡日からではなく、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」(民法第915条)と定められています。

特に相続する財産が無いため相続手続きをしなかったというケースは珍しくありません。しかし、「相続するものがなく、借金などの負債がないため何も手続きをしていなかったが、数年経過後に連帯保証債務などの請求が届いて困っている」といったご相談を頂くこともあります。

相続放棄手続きをしていないと、たとえ何も財産を受け取っていないとしても相続人という立場に変わりませんので債権者から債務を支払うように要求されます。しかし、債権者が債務者である被相続人の死亡を数ヶ月経過して知り、その相続人を調査・特定して支払い通知を送る場合、被相続人の死後数ヶ月経過している場合があります。

それでは、相続放棄手続き期限を過ぎて債権者から債権支払い通知が届いた場合、相続放棄手続きを申し立てることはできるのでしょうか?また、どのような対応をすれば良いのでしょうか?

相続手続きを何もしておらず債権者からの支払い通知が届いた場合

被相続人の死去時に負債がなく遺品に借金に関する書類や情報が特に見当たらなかった場合、相続放棄手続きをするケースは少ないでしょう。被相続人が生前事業を営んでいたなど借金をしていたことがある場合や、疎遠で関わりたくない場合であれば相続放棄手続きを検討することもあるかもしれませんが、何も理由がないのに家庭裁判所へ申し立てる相続放棄手続きをすることはほぼないでしょう。

しかし、相続放棄をしていない限りはその債務者の相続人であり、プラスの財産だけでなく借金等の債務も承継していることになります。

債権者から通知が送られてきて驚くとは思いますが、債権者としては当然の権利を行使したことになります。

債権者からの支払い通知で被相続人に借金があったことを知った場合、相続人の死後3ヶ月を経過している場合でも、財産を何も受け取っていない(相続していない)場合は相続放棄が認められる可能性があります。しかしながら、葬儀に出席するなど被相続人の死を知ってから3ヶ月経過している場合、申述書や照会書に理由を丁寧に述べなければ相続放棄の申し立てが却下される場合もあります。相続放棄手続きが却下されると再申請は原則できません。期限を超えており、かつ債権者がいる場合は相続放棄手続きが確実に受理されるように、実務経験豊富な専門家へ手続き依頼することをお勧めします。

相続手続きを何もしておらず債権者からの支払い通知が届いた場合

相続発生時に預金などを受け取っていた場合、たとえ少額の預金であっても受け取ることで相続を承認したことになります。しかしその後に債権者からの支払い通知など負債があることが判明し債務の請求をされた場合、相続行為をしているために相続放棄手続きはできません。

このような場合、相続手続きに慣れていない一般の方が債権者の対応をすることは難しいでしょう。しかし、専門家が丁寧にお話をお伺いし状況を把握することでお客様にとって最適なご提案をすることができるかもしれません。

期限を超えて債権者から支払い通知が届き、相続を承認する行為をしている可能性のあるケースは相続放棄手続き実績豊富な専門家へ相談し、相続手続きや債権者対応を依頼するようにしましょう。

相続放棄手続き終了後の債権者への連絡

相続放棄手続きが承認されると、あなたはもはや相続人ではありません。そのため、相続財産の負債を支払う必要はなくなります。しかし、相続放棄が承認されたことを債権者に伝えることは必要ありません。ただし、債権者が相続放棄が承認された事実を知らなければ、相続人への支払い請求は停止しません。支払い請求を停止させるためには、裁判所から送られてくる「相続放棄申述受理通知書」のコピーを郵送またはFAXで送ると良いでしょう。

「相続放棄申述受理通知書」は、相続放棄手続きごとに1通のみ発行されるため、原本を債権者に郵送しないようにしましょう。債権者によっては、「相続放棄申述受理通知書」の写しではなく、「相続放棄申述受理証明書」の原本が必要な場合もあります。「相続放棄申述受理証明書」は1通150円で発行可能で、再申請が可能です。

「相続財産管理人」は、全員が相続放棄した場合などに選任されることがあります

相続財産管理人は、相続人がいない、または全員が相続放棄して相続人がいなくなった場合など、相続財産の管理や清算を行います。

相続財産管理人が選任されるケースには以下のようなものがあります。

  • 被相続人(故人)の債権を債権者が回収したいが、相続人がいない場合
  • 特別な縁故者が自分の相続財産分を受け取りたい場合
  • 不動産の管理義務がある場合

相続財産管理人を選任するには、家庭裁判所に相続財産管理人選任審判の申し立てが必要です。この申し立ては、利害関係人(債権者・特別縁故者・特定遺贈の受遺者)または検察官が行うことができます。

また、債権者への清算が終わった後の残り財産は国庫に帰属します。この手続きも相続財産管理人が行います。

相続財産管理人を選任しないケース

相続財産がなく、管理や清算をする必要がない場合、相続財産管理人の手続きは必要ありません。

上記⑵①~③の場合でも、債権額が少額であり、相続財産管理人の選任による手間や予納金などから考えて、債権回収をしないこともあります。

まとめ

借金や税滞納といったマイナスの相続財産がある場合、相続放棄手続きを選択すると、プラスの財産も含め全ての相続財産を受け取ることはできません。相続財産の一部でも受け取ると相続を承認したことになり、相続放棄が認められない可能性があるため注意が必要です。

債権者は戸籍から相続人を特定し、支払い通知を送付します。そのため、突然、疎遠な親戚の相続人になったことを債権者からの通知で知ることは珍しくありません。債権者の対応をしながら相続放棄手続きを進めるのは大変なため、専門家に相談し、依頼することを推奨します。

「財産放棄(遺産放棄)」と「相続放棄」の違いは何ですか?

「財産放棄(遺産放棄)」は、「私は財産を相続しません」と相続人間で話し合いで決める手続きです。

「遺産分割協議書」は各相続人がどのように個々の相続財産を相続するかを決めた書類で、署名・押印(実印)することで、「相続する」「相続しない」の意思表示を行います。

遺産分割協議が終了した後に別の遺産が存在することが判明した場合、その財産についてどう扱うかは再度話し合いで決める必要があります。

財産放棄(遺産放棄)しても債権者からの請求は止まらない

故人が負債(借金や連帯保証など)を残している場合、「財産放棄(遺産放棄)」を行っても債権者からの請求を拒否できません。

例えば、「自分は関わりたくないので他の兄弟に全て相続してもらっても良い」と兄弟間で話合い、遺産分割協議書による手続きを行っている人もいますが、裁判所に相続放棄手続きを申請していないと、債権者からの請求は止まりません。

遺産分割協議書に借金は支払わないと明記していても、法律上相続人でなくなるわけではないため、債権者は請求する権利があります。

借金や連帯保証債務などは財産ではなく負担(義務)であり、債権者が権利を持っています。そのため、債権者を無視して借金を引き継ぐ人を勝手に決めることはできません。

借金などの債務は、法律で定められた相続分(これを「法定相続分」と言います)で引き継ぐことになります。これと異なる内容で引き継ぐ人を決める場合は、債権者の同意が必要となります。

また、債権者が同意するかどうかは債権者が自由に決めることができます。したがって、債権者が同意しなければ遺産分割協議書でどんな取り決めをしていたとしても、法定相続分の範囲内で支払う義務が生じます。

故人が遺した負債の相続について、確実に債権者からの請求を止めるためには「相続放棄」手続きを行うことをおすすめします。

相続放棄手続きは、全国の家庭裁判所で年間20万件以上申し立てられる手続きで、家庭裁判所の手続きの中でも最も件数が多いもので、特別な手続きではありません。

相続放棄とは法律上の手続き

「相続放棄」は、家庭裁判所への申立てにより「最初から相続人でなかった」として扱われる法的な手続きです。

家庭裁判所に相続放棄の申し立てをし、正式に受理(許可)されると、法律上相続放棄が認められたことになります。これにより、「相続放棄受理通知書」が発行され、これがあなたの身を守る証明となります。この証明書があれば、債権者からの催促に対して支払いの必要はありません。

相続放棄は、故人の借金だけでなく連帯保証債務も含まれます。そのため、誰かの連帯保証人になっている可能性がある場合や、財産よりも借金が多い場合は相続放棄手続きをしておくと安心です。

相続放棄手続きが認められると相続人ではなくなる

相続放棄が認められると、あたかも最初から相続人ではなかったかのように扱われます。その結果、負債だけでなく、プラスの財産も相続する権利が失われ、相続権は次の順位の相続人に移行します。

次位の相続人も相続を望まない場合、彼らも相続放棄の手続きをとる必要があります。「全てを放棄する」ため、「不動産だけは相続したい」という選択はできません。

財産を個別に相続するか否かを決定したい場合は、遺産分割協議で話し合い、決定する必要があります。ただし、この場合、基本的に故人の債務も相続することになります。

特定の財産だけを保持したい場合、「限定承認」という手続きが適していることもあります。

相続財産に負債が含まれている場合の相続手続きは難しく、軽々しく手続きを進めると思わぬ結果につながることもあります。

「相続放棄」か「財産放棄」、どちらの手続きを選択すべきか。

「遺産分割協議書」とは、遺産分割協議で決定した内容を記録した書類のことです。これには、誰がどの遺産を相続したかを記載し、全ての相続人が署名と実印を押します。

財産放棄(遺産放棄)をした場合の遺産分割協議書

財産放棄(遺産放棄)を遺産分割協議で主張し、その内容を遺産分割協議書に記載し、全ての相続人で署名と実印を押します。

しかし、何度も強調しますが、遺産を相続しないという内容の遺産分割協議書であっても、法律上は相続人から外れることはできません。

よって、被相続人に借金などの債務があった場合、債権者からの支払い請求を拒否することはできません。

借金を相続せず、債権者からの請求を止めるためには、家庭裁判所で正式な「相続放棄」の手続きを行う必要があります。

相続放棄をした場合の遺産分割協議書

相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになり、遺産分割協議書に署名する必要はありません。

相続放棄した人を除いた相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成します。

「財産放棄(遺産放棄)」と「相続放棄」、どちらの手続きを選択するか

相続財産に負債がない場合はそのまま全ての財産を相続(単純承認)することが多いでしょう。一方、明らかに多額の負債がある場合などは「相続放棄」の手続きを選ぶことが多いです。

しかし、具体的な相続の場面では、「負債がどの程度あるかわからない」や「一部の財産だけ相続したい」など、判断が難しい状況もよくあります。

例えば、

  • ① 両親の離婚後、長い間交流のない親からの相続
  • ② 疎遠な叔父叔母(子供のいない)からの相続
  • ③ 親が商売を営んでおり、借金があるがお店を継がなければならない場合の相続

などが該当します。

それぞれの状況に適した手続き方法を選ばないと、後々、予想外のリスクを抱える可能性があります。

故人に多額の借金がある場合

相続財産よりも借金が多い場合や、遺産分割協議により引き継ぐ財産の金額が法定相続分で計算した借金等の債務より多い場合は、まず相続放棄の手続きを検討しましょう。

ただし、債務超過であっても、実家や故人が経営していた会社の株式など、引き継ぎたい遺産がある場合には「限定承認」を検討することをおすすめします。

故人にプラスの財産があり、借金がない場合

相続財産に借金がなく、財産だけがある場合はそのまま相続(単純承認)しても基本的に問題ありません。

しかし、本当に借金や連帯保証債務などがないか、きちんと調査する必要があります。

そのまま相続(単純承認)をした後に、隠れた負債が発覚した場合は特別な理由がない限り、相続放棄を申し立てても認められません。

相続をして数年経過後に突然、債権者から通知が送られてきて負債を支払うように求められる、という相談は実際によくあります。

故人に借金や連帯保証債務などがあると不安に感じる場合は、安易に相続(単純承認)をしないようにしましょう。

また、遺産分割協議によって遺産放棄を進められる方も、後で隠れた借金等があれば法定相続分で引き継ぐことになりますので、注意が必要です。

故人にプラスの財産と借金がどれくらいあるかどうか、はっきりしない場合

相続財産と負債のバランスに不安がある場合や、特定の財産を保持したい場合、限定承認の手続きを考慮することをお勧めします。

限定承認の手続きは、相続放棄と同じく、家庭裁判所への申述により行われます。

限定承認を行うと、後日に多額の負債が発覚した場合でも、相続した財産の範囲内での支払いとなります。これにより、通常の相続に比べて負債リスクを最小限にすることが可能です。

ただし、通常の相続手続きに比べて、他の相続人との調整、官報公告、債権者への配当手続き等、手続きは複雑になります。そのため、経験豊富な専門家に相談することをお勧めします。

故人との共有財産がある場合

相続放棄を選択する場合、遺産に共有財産が含まれていることが多いと思われます。

例えば、

  • 夫婦で故人と自宅を共有名義にしているケース
  • 先祖代々の土地を相続人複数の共有名義にしているケース

などが考えられます。このような状況で、共有者の一人に相続が発生し、その全員が相続放棄をすると、故人名義の共有持分を相続できない状態(法的には「相続人不存在」と言います)になります。

この場合、不動産を売却したくても、故人の共有持分を処分する権限が他の共有者にはないため、売却が困難になります。

通常は、相続放棄後に家庭裁判所で「相続財産管理人の選任申立て」を行い、選任された相続財産管理人と共に売却を進めるか、財産管理人と交渉して持分を買い取ることが必要です。しかし、申立てにかかる費用が多額であることや、売却までの手続きが長期になることから、現実的ではありません。

相続財産管理人としては、裁判所の判断で物件のある地域の弁護士、司法書士が選任されることが多く、その人との意見調整が必要となります。

このような状況を避けるためには、限定承認の手続きを検討することをおすすめします。

限定承認の手続きでは、特定の相続財産を保持したい場合に、その持分を買い取って残すことが可能であり、他の共有者と共同でその財産の売却手続きを進めることもできます。

この場合、買い取る金額は、家庭裁判所で選任された鑑定人の評価額を基に決められます。

故人が自営業をしていた場合

亡くなった時点で明らかになっていない借金や連帯保証債務が存在する可能性は十分に考えられます。

相続手続きが完了して数年後に、突如として知らない債権者から督促状が送られてきたり、裁判所からの通知が届いたりすることは珍しくありません。

このような場合、相続放棄ではなく「財産放棄(遺産放棄)」を行っていたとしても、「相続の意志がないため全て放棄した」と主張しても、債権者からの支払い請求を避けることはできません。

故人の事業を継承する場合の注意点

故人が会社を経営しており、資金繰りのために大量の現金を会社に貸し出していた場合、その貸し出し金は相続の対象となります(一般的には「社長貸し出し金」と呼ばれます)。

相続放棄手続きを行わなかった場合、相続人は会社に貸し出したお金を請求する権利を得ますが、この「社長貸し出し金」は相続税の対象ともなります。

多くの場合、社長が自身のお金を会社に貸し出すのは会社の資金繰りが悪化しているためで、実際には会社からの返済は見込めない場合がほとんどです。

しかし、相続した場合、その社長貸し出し金は相続財産とされ、場合によっては相続税を支払わなければなりません。

現金を実際に得ることがなくても、その債権は相続財産の対象となり、税金が生じるのです。

また、故人が経営していた会社が相続後に自己破産手続きを行い、その債権が消滅したとしても、原則的には相続の段階では債権は相続財産として存在したとみなされますので、相続税を支払わなければなりません。

相続放棄を行った場合、最初から相続人ではなくなりますので、事業継承や債権について考える必要はありません。しかし、相続放棄をせずに生前会社を経営していた故人の事業承継を考えている場合、相続財産や手続きは複雑で多岐にわたります。

生前に相続放棄をしたい場合

「両親が負債を抱えていることを知っており、まだ健在ですが、事前に相続放棄の手続きをしたい」とのご相談をよく受けますが、生前に相続放棄をすることはできません。

家庭裁判所の「相続放棄」の手続きは、相続が開始したことを知った後、3ヶ月以内に行うべき手続きであり、本人が生存中に申し立てることは認められていません。

しかし、相続放棄を決意していても、生前に適切な準備を行うことで、一部の資産を相続人が保持した状態で相続放棄を行うことが可能な場合もあります。

「相続放棄と財産放棄の違い」まとめ

「相続放棄」は、相続人でなかったとみなされる法的手続きです。家庭裁判所で手続きを行い、認められれば正式に相続関係から外れ、借金を含む財産を放棄できます。

一方、「財産放棄(遺産放棄)」は、相続人が「相続しない」と意思表示するもので、遺産分割協議書などで手続きを進めます。これは家庭裁判所の手続きよりも簡易な手続きで、書類一枚で完結します。しかし、被相続人に借金がある場合、借金自体は放棄されません。借金の相続も放棄するには家庭裁判所で「相続放棄」の手続きが必要です。

「財産放棄(遺産放棄)」と「相続放棄」の違いを明確に理解し、判断しましょう。誤解が生じると思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。

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