兄弟で土地を相続すると、なぜ争いが起きやすいのでしょうか?
土地が相続財産となった場合、相続人が一人であれば問題はありません。
しかし、相続人が複数いるとトラブルが発生しやすくなります。
現金と比較してみると、土地の取り扱いの難しさが理解しやすいでしょう。
例えば、現金は相続財産の分配においてそのままの価値評価を受けます。
つまり、1500万円ならその評価となります。
しかし、土地については、まずその価値評価を相続人同士で話し合って決めなければなりません。
相続税評価額や固定資産税評価額、あるいは実勢価格など、評価の基準となる価格は複数あります。
それぞれの相続分に影響を及ぼすため、土地を高く評価した方が有利な人と、低く評価した方が有利な人が出ることで、評価方法についての意見が衝突しやすくなります。
3人の兄弟がいる場合など、現金は公平に3等分することが可能ですが、土地を完全に公平に分けるのは非常に難しいです。
土地を分筆して分けることは可能ですが、分けた後の土地の使いやすさや、道路に面しているかどうかで相続税評価額が変わり、負担が増減することがあります。
そのため、単純に分けることは難しいのです。
土地は財産として価値の評価が難しく、公平に分割することが難しいため、トラブルの原因となりやすいのです。
土地相続時に相続人が知っておくべきポイント
複数人の兄弟姉妹で土地を相続する際、遺言書が無い場合、土地は必ず共有状態になることを覚えておきましょう。
遺言書がある場合は基本的に遺言が優先され、特定の人物に土地を相続させる旨の記載があればこれに従います。遺言書が用意されていない場合、承継先が指定されていないため、全ての相続財産は一旦共有状態となり、土地も兄弟姉妹で共有されます。
この共有状態から遺産分割協議を行い、現物分割や代償分割、換価分割などを考え、どのように取り分を配るかを話し合いで決めます。話し合いが上手くいかない、あるいは面倒だということで話し合いがまとまらないと、後のトラブルの種になります。
共有のままにしておくと、さらにトラブルが増える可能性も!
共有のままでもしばらくの間は特に問題にならないかもしれません。しかし、将来土地の利活用を巡って意見が衝突した際には、有効な手立てが打てず土地が塩漬けになるリスクが大いにあります。また共有者の誰かが認知症になると、売却する際の同意の意思表示もできないので、成年後見人の選任が必要になります。
さらに、将来的に共有者が死亡した場合には、共有者の相続人が権利義務を引き継ぎます。そのため、土地の扱いを巡る意思決定が必要になった時に話をまとめるのがより難しくなります。
土地はトラブルが生じやすい性質があることを踏まえ、将来相続財産となることが分かっているのであれば、事前にトラブル回避のための準備をしておくと安心です。
共有名義の不動産のデメリット
共有名義の不動産を持ち続けるデメリットは、あなたの生涯にわたり影響を及ぼし、さらには将来的に自分の子供や孫にも世代を超えてトラブルを引き起こす可能性があります。
以下で共有名義のデメリットを詳しく説明しますので、これらを理解した上で、不動産を共有名義で取得するべきかどうか判断してください。
自由に売却できない
共有名義の不動産は、共有者のうちの1人が自由に売却することはできません。共有者全員からの合意が必要なためです。
具体的には、例えば不動産を「Aが9割、Bが1割」で共有している場合、不動産を売却する際にも9割の持分を持っているAさんの意見が優先されるわけではありません。1割の持分を所有しているBさんがいれば、不動産全体を売却するためにはAさんはBさんからの合意を得る必要があります。
ただし、自身の持分だけであれば、他の共有者の同意を得ずに売却することは可能です。一般的な不動産屋では扱わないことが多いですが、専門の買取業者であれば買取ることができます。
自由に貸し出せない
共有名義の不動産を、共有者のうちの1人が自由に他者へ貸し出すことは制限されます。共有不動産を賃貸に出すためには、共有者の共有持分の過半数からの合意が必要となります。
例えば、兄弟3人で「3分の1ずつ」の共有名義になっている場合、少なくとも2人の合意がなければ賃貸利用はできません。
自由にリフォームできない
共有名義の不動産に、共有者のうちの1人が独断でリフォーム工事を施すことは制限されます。軽微でないリフォーム工事にも共有者の共有持分の過半数からの合意が必要となります。
不動産の価値が低下してしまうと、将来、売却しようとしても、安値でしか売れなくなってしまいます。
他の共有者の使用を妨げられない
共有名義の不動産上に、特定の共有者が居座って占拠していたとしても、特別な事情がない限り、原則としてその占拠者を追い出すことはできません。
もちろん、占拠者以外の共有者にも不動産を使用する権利がありますから、対価として賃料を請求することは可能です。ただ、物件の占拠者が賃料の支払いに簡単に応じるとは限らず、最終的には裁判まで発展する可能性もあります。
持分割合に応じて費用を負担しなければならない
共有名義で不動産を持ち続けている限り、各共有者は固定資産税や維持管理費などの費用負担を拒否できません。これらの費用は、共有者全員がそれぞれの持分割合に応じて負担するよう法律で定められています。
次世代の相続でトラブルに発展する
共有名義の不動産を放置していると、将来自分の子供や孫がトラブルに巻き込まれる可能性があります。
共有者のうちの1人が亡くなり、持分が複数の相続人へ受け継がれていくたびに、共有者が増え続け、売却などの合意形成が困難になるからです。
繰り返しの相続により共有者が増えすぎて、他の共有者の顔や名前さえ分からない状況もあります。
このような共有関係に、あなたの子供や孫が加わったとしたら、不動産を売却するためにはまず共有者を探すことから始めなければならず、合意形成は難しくなるでしょう。
つまり、共有名義で不動産を所有しているだけで、自分が亡くなった後、家族に問題を残す可能性があります。
事前にやっておくとよい土地相続トラブル回避策
前項でお話ししたように、遺言書があればこちらが優先されます。したがって、遺言者となる人があらかじめ土地が単独所有となるような内容で遺言を作成しておくのが望ましいでしょう。
その場合、他の相続人が不満足とならないよう、相続財産の配分を考えて不公平がでないように配慮も必要です。可能であれば遺言者となる人と相続人予定者の兄弟姉妹で話し合い、相続財産の配分についてそれぞれが納得できる内容を取り決めておくと安心です。
そのためには、土地だけでなく相続財産となる全ての財産を洗い出し、誰がどの財産をどれだけ相続するのか、財産の管理方法なども含めて話し合って決めておく必要があります。
もし、事前の対策をしておくなら、子(など家族)が高齢の親(ご本人)に代わり、契約に定めた内容の中で生前から資産の管理・運用をすることができる「家族信託」という制度も考えておいて損はありません。
また、遺言内容は必ずしも秘密にせず、関係者の間であらかじめ合意を図っておいた方が相続開始後のトラブルの回避につながることが多いです。ケースによって難しいこともありますが、可能であれば事前協議を図っておくことをお勧めします。
土地相続の際の解決策
それでは、相続財産に土地が含まれている場合、どのように対処すればよいのでしょうか。以下で土地の相続の方法について6つ見ていきます。
家を特定の誰か一人に相続させたい場合の「現物分割」「代償分割」
現物分割
現物分割はそのままの相続財産を分割する方法です。例えば、自宅(土地を含む)は長男、預金は次男、株式は三男というように、他の相続財産とのバランスを考慮しながら、各相続人が現物をそのまま相続する方法です。各相続人が満足する量の相続財産がある場合、これで問題なく済むこともあります。
代償分割
現物分割は、預金や有価証券などの多種多様な相続財産が十分にある場合に可能です。しかし、目立つ相続財産が土地以外にない場合、各相続人の取り分を満たすことはできません。
そこで、例えば長男が土地を単独で相続する代わりに、次男と三男の相続分を満たすため、長男が自分の資産から代償金を支払うという方法があります。1500万円の土地であれば、長男は自分の資産から次男と三男にそれぞれ500万円を支払います。
長男がその土地に住み続け、次男と三男が遠方で暮らしていて土地を使わないという場合、代償分割が有効です。
家を売却して現金で分割する「換価分割」
換価分割
土地を売却して現金化し、その現金を分けるという方法もあります。土地を利用する相続人がいない場合に最優先で検討されます。
全員で不動産を相続する「分筆」「不動産共有」
分筆
前述しましたが、法的に土地を分筆して分割することも可能です。正確には分筆は上記の現物分割に含まれますが、ここでは個別に考えます。
一つの土地を三つに分けることで、長男、次男、三男がそれぞれ土地の所有権を取得できます。ただし、分筆後の土地の価値に変動が生じ、不公平感が出る可能性や、土地の使いやすさに差が生じるリスクもあります。
土地を共有にする
不動産は複数人で共有できるため、土地も特定の人の単独所有ではなく、相続人全員で共有することも可能です。しかし共有になると、土地の活用について意見が衝突すると、土地の効率的な活用が難しくなる可能性があります。
また、将来売却する際には必ず全ての共有者の同意が必要です。一部でも同意が得られないと、有効な利用や活用ができず、土地が放置されるリスクもあります。そのため、土地の共有は避けた方が良いとされています。
「相続放棄」で煩雑な手続きから逃れる
⑥相続放棄をする
相続に興味がない相続人は、相続放棄をすることで面倒な遺産分割協議に参加せずに済みます。相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったとみなされるため、土地の相続権は他の相続人に移ります。
上述の例では、次男と三男が相続放棄すると、自動的に長男が土地を相続します。
土地を長男に相続させたい!長男にスムーズに土地を譲る方法とは?
土地の相続は長男に限らない
子供たちの相続権は等しく 旧民法の家督相続では、土地などの財産は一般的に長男が相続しました。しかし、現在の民法では、法定相続人全員が法定相続分に応じた相続権を持っています。
子供がいる場合、全ての子供が法定相続人になり、長男だけでなく他の子供も平等に相続権を持ちます。そのため、土地を長男だけに相続させることは必ずしも可能ではありません。
遺産分割協議で長男が土地を取得することに合意する必要がある
土地を法定相続人全員で共有する必要はありません。相続財産の中から誰が何を取得するかは、相続人全員の遺産分割協議で決めることになります。長男が土地を取得し、他の相続人が他の財産を取得する形で協議がまとまれば問題ありません。
しかし、現実にはすんなり話がまとまらないことも多いです。特に、土地以外に財産がない場合、長男が土地を取得すれば他の相続人が取得できるものがなくなり、争いが起こりやすいです。
長男に土地を譲るための遺言や生前贈与を活用する
長男に土地を相続させたい場合、生前の対策が必要です。有効な対策としては、遺言を書くことがあります。
また、生前贈与も選択肢の一つです。生前贈与では、自分で贈与する相手を選ぶことができるため、長男に確実に土地を取得させることが可能です。
遺言を書いて土地を長男に相続させる方法
遺言で土地の相続人を長男に指定する 遺言が存在する場合、法定相続よりも故人の遺志を反映する遺言が優先されます。「土地を長男に相続させる」という遺言を書けば、自分が亡くなった後、長男が土地を引き継ぐことになります。
遺言は法的な形式を守って作成する必要がある 遺言は、法律で定められた形式に従って作成しなければ無効になります。遺言の形式にはいくつかありますが、主に自筆証書遺言と公正証書遺言が利用されます。
自筆証書遺言は自分だけで作成しますが、要件を欠いて無効になるリスクや偽造のリスク、発見されないリスクなどがあるため、遺言を作成する場合は公正証書遺言がおすすめです。
他の相続人の遺留分も考慮する 遺言を書くときには、他の相続人の遺留分も考慮する必要があります。遺留分は一部の相続人に確保されている財産の取り分で、遺言によっても遺留分を奪うことはできません。
たとえば、相続人が長男と次男の2人の場合、次男は遺留分として少なくとも財産の4分の1を取得できる権利を持ちます。
遺言で長男に土地を相続させたいなら、次男にも財産の4分の1以上を相続させるべきです。次男が取得する財産が遺留分より少なくなった場合、次男が長男に遺留分減殺請求をする可能性があり、その結果、長男が土地全体を取得できなくなる可能性があります。
土地を長男に生前贈与する方法
生前贈与も遺留分侵害の問題に注意する 亡くなる前に長男に土地を生前贈与すれば、土地を確実に長男に引き継がせることができます。ただし、長男に土地を生前贈与する場合でも、遺留分侵害の問題に注意が必要です。
相続開始前1年以内に行われた生前贈与については、遺留分を侵害された人が遺留分減殺請求をすることができます。また、それ以前に行われた生前贈与でも、遺留分侵害を認識しながら行われた場合も同様に遺留分減殺請求の対象になります。
長男と次男がいる場合、長男に土地を生前贈与する場合でも、次男にも適切な財産を与えるべきです。
生前贈与する場合は贈与税に注意する 生前贈与を行うと、財産を受け取った側に贈与税が課せられます。生前贈与には年間110万円の基礎控除(非課税枠)がありますが、土地の価格は通常110万円を超えるため、課税されることになります。
土地を相続させる場合には、相続人には相続税が課せられます。相続税の基礎控除額は相続人の数によって変わりますが、相続人が1人の場合でも3,600万円です。これは贈与税よりもずっと大きい額です。
一方、土地を長男に譲る場合、相続まで待てば税金がかからないのに、生前贈与すれば贈与税が発生する可能性があります。
そのような場合には、相続時精算課税制度を利用することをおすすめします。
相続時精算課税制度とは、2,500万円までの生前贈与について贈与税を免除し、相続発生時に贈与財産と相続財産を合わせて相続税を計算する制度です。
相続時精算課税を利用すれば、生前に長男に土地を譲り、税金の支払いを相続時まで先延ばしにすることができます。
不要な土地を相続した場合の対処方法
使い道がない、または利用や活用が難しい相続土地でも、固定資産税などの税金負担は免れません。さらに、ロープを張る、看板を立てるなどして管理されていることを示さなければ、ゴミの不法投棄や不法占拠などのリスクも存在します。
不要なリスクを避けるため、以下の方法で不要な土地を手放すことを検討しましょう。
売却する
可能であれば、売却して換金するのが最も有利です。ただし、不動産の売却は時間がかかり、一般的に都市部から離れるほど難しくなります。早ければ3ヶ月程度で売れることもありますが、1年以上かかることもあるので、時間的な余裕を持つ必要があります。
売却代金に関わる不動産譲渡所得税の支払いは、売却した翌年になるので、売却代金を納税資金に使う場合は、使い果たさないように注意してください。
贈与する
売却で買い手が見つからない場合、無償で贈与することも可能です。親しい人にも声をかけることができ、利用価値を感じてくれる人がいれば引き取ってもらえます。自分で所有していても使い道がなく、税金だけが負担になるよりは、無償で譲る方が良い場合もあります。ただし、無償の贈与でも贈与税の対象になるので、土地を引き取った人が課税される可能性があります。
寄付する
特定の団体や組織の活動に賛同できる場合、その活動に用いることを条件に土地を寄付することも可能です。自治体やNPO法人などに寄付すれば、社会貢献にもなるため、満足感を得られます。
ただし、寄付先の団体や組織にとって使い勝手の悪い土地は、管理の手間や税金の負担が増え、メリットがない可能性があります。例えば、山奥の土地など利用が難しい土地は、寄付を受け付けてくれないこともあるので、寄付が難しいケースも理解しておく必要があります。
相続放棄する
土地が利用価値のないもので、売却も難しいと初めからわかっている場合、相続をせず、相続放棄をすることも一つの選択肢です。相続放棄すれば、売却や贈与、寄付にかかる相手探しや手続きをする必要はありませんし、所有しないので税金の負担もありません。
ただし、相続放棄をすると、土地以外の他の相続財産も引き継げなくなるので、本当に相続放棄をする方が得かどうか、よく検討する必要があります。
まとめ
この回では複数人の兄弟姉妹で土地を相続する場合のリスクや分割の方法、トラブルを避けるための方法などを見てきました。
土地は物理的な分割が難しく、トラブルになりやすい
実際の分け方は複数あるので、ケースに応じて考える必要がある
要らない土地は手放すことで管理や税金の負担をなくせる
土地は共有状態にしないほうがトラブルを避けられる
共有にしないためには、事前に関係者同士で話し合いを付けておくと良い
事前の話し合いでは他の相続財産の承継も含めて総合的な思案が求められます。問題点やリスクがどこにあるのか、回避するにはどうしたら良いのか、一度は相続に詳しい専門家に相談してみることをお勧めします。
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